誰もがコンテンツを創造、参加の時代へ
現在われわれは、コンシューマー経済の次の新しい経済の中にある。この経済の中心は、製造する側でも購入する側でもない。「消費と創造を同時に行うクリエイターだ」とSaffo氏。そういったことから、「クリエイター経済(Creator Economy)」とSaffo氏は呼ぶ。創造力のある"クリエイティブ(Creative)"ではなく、普通の人々が気がつかずに創造していることから"Creator"としたのがポイントだ。
たとえば、動画をアップロードできる「YouTube」、百科事典作成に参加できる「Wikipedia」、情報を短い言葉で伝えることができる「Twitter」・・・。これらはこれまでの製品やサービスとは根本から異なるモデルを持つ。キーワードは参加だ。これまでは観るだけ、聴くだけ、読むだけと受身だった消費者だが、参加できるようになった。「参加しなければクリエイター経済のエクスペリエンスは得られない」とSaffo氏。
Saffo氏が新しいクリエイター経済の「古典的なエッセンス」として取り上げたのがGoogleだ。Googleはそれだけではなんの価値もないサービスだが、検索キーワードを入力した瞬間にユーザーは価値を見出す。利用は無料で、検索キーワードが対価となる。Googleの経済モデルの土台は、ユーザーが入力するサーチストリームのアグリゲーション。意識していないユーザーがほとんどだが、「アグリゲートすると想像できないほどの大きな価値を生む」とSaffo氏は述べる。
Saffo氏はわれわれがGoogle検索に入力するキーワードを「クリエイティビティなコンテンツ」と呼ぶが、このコンテンツが小さければ小さいほど、短ければ短いほど価値を生むという。「Googleが強い理由はここにある。小さなクリエイティビティ・コンテンツを束ねることができるからだ」とSaffo氏、将来Googleを超える企業は、モバイルでのクリックなど、より小さなクリエイティビティコンテンツを束ねることができる企業だろう、とも予言した。
既存メディアは危機に、メディア革命
コンシューマー経済でTVが中心的役割を果たしたように、クリエイター経済にも中心役がいる――お分かりだろう、Webだ。
だが、新しい経済は激動を生み、社会の変化を生む。新しい種類のクリエイティビティにとってはチャンスとなるし、これまで創造側にいた人にはストレスになりかねない。そういった文脈から、新聞・雑誌、TV、映画などの既存メディア産業はクリエイター経済の影響を大きく受けることになる。
これは、先に挙げたクリエイター経済時代の特徴的製品をみればあきらかだ。YouTubeにより、TV局ではない人が映像コンテンツを作成して公開できるようになり、Wikipediaにより学者ではなくても百科事典の編集に参加できるようになった。Twitterなら、新聞記者ではなくてもニュースを伝えることができる。「Facebook」などのソーシャルメディアもしかりだ。
クリエイター経済ははじまったばかりだ。「メディアはどうやって生き残るのか、考える必要がある」とSaffo氏は問いかける。同時に、「新しい世界を形作る中心的役割も果たしている。重要な責任がある」とも述べる。
変化を予測するために、3つの技術トレンド
最後に、Saffo氏がスピーチ中に言及した3つの技術分野を紹介しよう。Saffo氏は今後、人々の生活、組織の構造、政府などさまざまなところで力関係が変わる、と予言するが、まずは短期的変化を予測する助けになりそうだ。
1、クラウドへのシフト
メディアはこれまでの「チャンネル」からクラウドへ
2、閉鎖(クローズド)からオープンへ
ITはすでにオープンを受け入れつつある(「IBMは最たる例」)が、メディアにとっては今後大きな課題となる
3、オーディエンスの考えや概念がクラウド(群衆)の考えや概念に
革命的シフト。アラブの春がよい例で、深いレベルで社会的変更を伴う