パフォーマンスを低下させることなく信頼性を確保
RapidIOの強みはその信頼性にあります。ハードウェアに組み込まれている承認スキームによってパケットのドロップが防止され、パケット転送が保証されます。信頼性の高いパケット転送のためのメカニズムは物理層で処理され、純粋にハードウェア内で実行されます。ハードウェア内でパケット転送を処理することは、システムのパフォーマンス向上に大きな効果があります。ソフトウェアが介在することなく信頼性の高い配信が実現するため、ソフトウェアのルーチンによってトランザクションが遅延することがありません。
10GE規格の場合、物理層では、パケット配信はベスト・エフォート・レベルでしか管理されないため、パケットがドロップする可能性があります。パケット配信を保証するには、ソフトウェアに信頼性の高い転送メカニズムが実装されているTCP層を経由しなければなりません。ソフトウェア層にアクセスすると、貴重な時間の消費、プロセッシング・リソースの消耗、システム・パフォーマンスの阻害につながります。このようにソフトウェアが介在することにより、10GE設計では10μsを超えるシステム・レイテンシが発生する場合があります。
これに対して、S-RIOにおけるシステム・レイテンシは約1μsとなります。パケットの再送を行えば、10GEシステムではさらに複雑度が増し、数十μsを要する可能性があります。S-RIO設計の場合は、パケットの再送は透過的で、完全にハードウェア内で処理されるため、1μs未満で完了します。
また、パケット転送を保証するためにソフトウェアが介在すると、非確定的なシステム・レイテンシが発生します。パケット転送動作の完了に要する時間は、パケットの受信時にどのようなソフトウェア・ルーチンが実行されていたかによって異なり、予測することができません。10GEのようにパケット転送の保証にソフトウェアが介在する規格は、レイテンシを小さくまた確定的に維持することが重要なシステムには適していません。
デバイスコストだけでなくシステム全体コストが重要
10GEでは、プロトコル・スタックを実装するソフトウェアを実行するために、プロセッサの可用性が求められます。このようにソフトウェア・スタックを管理する必要があるため、プロセッシング・オーバーヘッドが増大し、システムの効率が低下します。Ethernetでは、プロセッシング・パフォーマンスの15~30%がソフトウェア・スタック管理によって消費される可能性があります。
プロセッサが100ドルだとすると、システムにおける見えないインターコネクト・コストは、プロセッサ当たり15~30ドルになります。これに対して、RapidIOシステムのプロトコルではソフトウェアの介在が最小であるためプロセッサに対する負荷が軽減されます。その分をプロセッサの高速化に利用すれば、少ないコストで、よりパフォーマンスに優れたシステムを構築することができます。
システムの消費電力
RapidIOプロトコルの処理に必要なプロセッサの負荷が軽減されれば、システムの消費電力も低下します。プロトコル管理にマルチギガヘルツ・クラスのプロセッサを使用することが少なくなるため、システムの消費電力は最小限に維持されます。それによって熱管理コストも削減され、結果的にシステムの複雑性も軽減されます。10GEシステムでは、利用するプロセッシング・リソースが増えるため、システムの消費電力も増大する可能性があります。
スケーラビリティによって競争上の優位を獲得
無線インフラ市場は非常に競争が激しい市場です。ベンダ各社がラインカード当たり加入者の獲得を争う中で、スケーラブルなシステムを構築することが不可欠になっています。
その結果、システム設計者は、パフォーマンスの変化に応じて柔軟に変更できるアーキテクチャを設計しなければなりません。RapidIOシステムは、同じレジスタ・セットを使用して、ポート速度を簡単にスケールアップすることができます。対応可能なポート速度は1/2/2.5/4/5/8/10/16/20Gbaudです。これに対してEthernetでは、1Gビットから10Gビットに帯域幅を拡張するためには、新しいレジスタ・セットと、システム・ソフトウェアの大幅な変更が必要になります。
10GEエコシステムに欠けているもう1つの要素は、ポートカウントが少ないスイッチの可用性です。ほとんどのデバイスでは、多数の1GEポートと10GEが2ポートで、ポートカウントが多いバックプレーンやアグリゲーション・デバイスに対応しています。
結論
S-RIOには、小さく確定的なレイテンシ、システム・プロセッサの負荷軽減、高い信頼性、プロトコル管理のためのプロセッサとソフトウェア間の緩いカップリングなどのメリットがあります。
こうしたメリットによって、S-RIOは無線アプリケーションに最適なデフォルト・プロトコルになっています。10GEは、デメリットがあることから、一般的に無線ベースバンド・アプリケーションに適したプロトコルであるとは見なされていません。RapidIOを使用すれば、設計者は消費電力とコストを最小限にしながら最大限のパフォーマンスが得られる、スケーラブルなシステムを構築することができます。その結果、競争が激化する市場で優位を獲得することが可能になります。
著者紹介
Kashif Hasni(カシフ・ハシニ)
米Integrated Device Technology(IDT)
シニアプロダクトマネージャ
IDTにおけるRapidIOスイッチ製品群の、テクニカル・マーケティング、ビジネス・オペレーション、およびビジネス開発の責任者などを務める。また、ASICの設計/検証や製品開発として15年以上の経験を有している。