長崎県佐世保市のテーマパーク「ハウステンボス」が2011年9月期上期決算で黒字化した。1992年のオープン以来、18年間にわたり赤字だった同社が、一転して黒字化した要因としては、2010年4月から旅行大手のエイチ・アイ・エスの傘下に入ったことが大きい。
エイチ・アイ・エスの創業者であり、現会長の澤田秀雄氏が2010年4月にハウステンボスの社長に就任して以来、氏は現場で改革の陣頭指揮を執り、いまでも週の半分近くをハウステンボスで過ごす。2011年9月期の黒字化も視野に入っており、今後の観光ビジネス都市への発展に向けて、新たな施策も相次ぎ展開しようとしている。なぜハウステンボスは黒字化したのか。同社の澤田秀雄社長に聞いた。
オープン以来18年続く赤字から脱却
ハウステンボスは1992年の創業以来、赤字経営を続けてきた。東京ドームが33個入る152万平方メートルという広大な敷地にオランダの街並みを再現したテーマパークとして約2,200億円を投じて開発。年間400万人を目標にオープンしたが、1996年の380万人をピークに、その後は来場者が減少。2003年には会社更正法の適用を申請して、野村証券傘下の野村プリンシバル・ファイナンスが再建にあたっていた。しかし、その後も来場者数は伸びず、2009年度実績は141万人にとどまり、赤字からの脱却も実現されなかった。
2010年4月からは旅行大手のエイチ・アイ・エスの傘下で再建を目指すこととなり、九州電力をはじめとする九州財界5社(九州電力、西部ガス、九電工、JR九州、西日本鉄道)との連携も行い、さらに佐世保市からは再生交付金が支払われている。
澤田氏は、ハウステンボス再生へと踏み出した理由を3つ挙げている。
1つ目は長崎県知事、佐世保市長の熱心な申し入れがあったこと。もう1つは2,200億円という投資を行ったにもかかわらず、潰してしまっては日本の観光業界としても大きなイメージダウンになると考えたこと、そして、最後はスカイマークエアラインズの設立や、共立証券(エイチ・エス証券)などの企業再建を成し遂げた手腕がハウステンボス再建にも生かすことができると判断したことだ。
これらを基盤として、同氏は2010年3月25日に佐世保市と基本合意に至り、再建に乗り出すことにした。
黒字化は社員の努力の賜物
澤田氏に、この約1年、ハウステンボスは何が変わったのかを聞いてみたが、その答えは極めてさらりとしたものだった。
「何も変わっていないよ」
だが、続けて「黒字化は社員が一生懸命がんばってくれたことに尽きる」と語った。
決算時期を変更した2011年9月期中間決算(2010年9月~2011年3月)では、入場者数が前年同期比29%増の19万6,000人、売上高が24%増の58億1,400万円、営業利益が2億7,600万円、経常利益が6億9,000万円と黒字転換した。さらに2010年4月~2011年3月という1年間の業績は、佐世保市からの再生交付金収益を除いても営業利益が1億3,600万円と黒字化した。
2010年10月に初めて開催した「ガーデニングワールドカップ・フラワーショーinナガサキ」では、40代以上の顧客層の獲得に成功。前年同月比79%増という大幅に集客増を記録した。また、11月から開催した700万球を使用したイルミネーション「光の王国」では、クリスマスを中心にカップルやファミリーを集客。12月の来場者数は前年同月比47%増となった。
澤田社長が社員に行った3つの指示
澤田氏は社長就任時に3つの指示を社員に行っている。「みんなで掃除しよう」、「明るく、元気に、楽しく仕事をしよう」、「2割の効率化を目指そう」の3点だ。
澤田氏には、「オフィスが汚い会社は発展しない」という持論がある。来場者には見えないバックスペースにまで踏み込んで掃除を徹底し、これは現在でも毎朝15分間の掃除という形で実践されている。また「社員が明るい会社は成長する、悪い状況でも社員が明るければいい方向に向かう」という持論もハウステンボスに持ち込んだ。そして、最後の「2割の効率化」は、2割のスピードアップか、2割の経費削減が具体的な指針だ。どちらかの達成を社員に求めたわけだが、この両方を達成すれば、4割の効率化が可能になる。
「社員一人ひとりが2割の効率化をできれば大抵の会社は再生できる」というのも澤田社長の手法だ。だからこそ、澤田社長自身からは「何も変わっていない」という言葉が出たのだろう。
だが、ハウステンボスは傍目から見ても明らかに変化している。社長就任以来、ハウステンボス内で閉鎖していた店舗や施設をなくし、出店店舗には競争原理を持ち込んだ。現在、新規出店する店舗は6ヵ月の契約でスタートする。赤字が続く店舗、成長していない店舗は撤退してもらい、新たな店舗を誘致する。
「東京で人気のあるジェラートの店が進出したら、あっという間に人気になった。東京で競争して力のある店舗はどこに行っても強い」と、同氏は人気店舗の誘致に力を注ぐ。
そして、人気店の進出とダブらせながらこんな逸話も披露する。「昨年、平日の一番人が入らないタイミングでAKB48のライブを開催したが、予想を上回る数の人たちが来場した。しかも、20代前半の男性というハウステンボスが最も弱い顧客層を集客できた。AKB48のメンバーたちにも競争原理が働いており、そのモチベーションが人気の要因であることを理解できた。それまでAKB48がどんなグループかを知らなかったが、ライブの最後にはみんなと一緒にペンライトを持って応援していた」と笑う。