SmartGrid Panelから

基調講演とは別に、3日目の午後に同社のHenri Richard氏(Senior Vice President, Chief Sales and Marketing Officer)の司会で、Smart Energy Consumer Panelが開催された(Photo09)。参加者は

といった面々で、それぞれがSmart Energyに向けた自社製品の取り組みを紹介した上で、いろんな切り口での議論が行われたわけだが、この中でいくつか面白い発言があったのでちょっとかいつまんで紹介したい。

Photo09:一番左が司会を務めたHenri Richard氏、ついでBrewster McCracken氏、Mile Rowand氏、Christian Okonsky氏、Jun Shimada博士

今回パネリストとして登壇した4人の会社は、それぞれがSmart Energyをテーマとした製品やサービスを提供している。Pecan Street Projectは小規模なボランティアを募り、実際にSmartGridを構築して、様々なデータを収集すると共に、将来に向けた技術開発を行ってゆくもの。Duke Energyはまさにエネルギー供給会社であるが、同社はGreen Powerとか様々な省電力技術などを取り入れたサービスを開始している。KLD Energyは電気自動車や電気モーターバイクなどに向けたテクノロジーや製品を提供する会社である。そしてThinkEcoは、ニューヨークで家庭の省電力化を促進するサービスをすでに提供している会社である。実はこのThinkEcoの製品は、Technical Labでも紹介されており(Photo10~16)、比較的わかりやすい。

Photo10:Smart Grid関連ブース。i.MX28プロセッサにZigbeeもしくはPLCを組み合わせた形で電力監視や電力管理を行える、いわゆるSmartMeter向けソリューションである

Photo11:こちらがThinkEcoの"modlet"。普通の壁のコンセントにこれを挿し、実際に使う家電機器などはこのmodletのコンセントに挿す。これにより、電力監視や電力制御を可能にするというもの

Photo12,13:こちらは北欧でやはりサービスインしている製品だとか。機能的にはmodletに非常に近いが、コンセントは一口で、北欧のコンセント形状に合わせたものになっている。横に突き出した部分に電力監視/制御のコントローラが内蔵されている

Photo14:こちらは屋外の電力メータのプロトタイプ。コントローラとはPLC Modemで接続される形。「なぜZigbeeで繋がないの?」と聞いたところ、この電力メータは扱いとしては電力配給会社の所有物になるからで、そのためPLC Modemで配給会社のコントローラと繋がる形になるのだとか

Photo15:これがi.MX28をベースにしたHome Energy Management System。今回はPhoto12/13のものとZigbeeで接続する形になるが、技術的にはmodletとの通信も可能という話であった

Photo16:こちらがHome Energy Management Systemの画面。この画面からおのおのの消費電力の監視や管理の他、必要なら別にルータなどと繋げて携帯電話などから監視/操作も可能となる

同社の製品は、一言でまとめれば消費電力の可視化を行うもので、modletに繋いだ機器の消費電力の変化などをWeb上で簡単に確認することができ、必要ならリモートで電源のOn/Offも可能となっている。これにより、利用者は自身がどの位の電力を普段から利用し、どのくらいの費用を支払っているか、そして無駄を減らすことによりどの程度の金額やエネルギーを節約できるのかすぐに理解できるようにする、というのが同社の提供するサービスである。これを利用することで、消費者に節電意識を持たせようというのが長期的な狙いである。このあたりはSassorの言う「節電見える化ソリューション」にかなり近い。もっともこうした話は別にThinkEcoやSassorのみならず、Pecan Street Projectの目的の中にもこうした話は含まれているし、Duke Energyのサービスの中にも入っているなど、割と普遍的な話であることが判る。

こうしたことを念頭においた上でパネルディスカッションでは

  • 単にコストを表示するだけでは不十分な場合もある。たとえば不要時に水を止めることでシャワーのコストが25セントから10セントに減ることが判っても、(いちいち水を出したりとめたりする)不便さが、余分な15セントに勝ると判断するユーザーは少なくない。なので、それ以上の何かインセンティブになる事を考える必要がある。
  • そのインセンティブの1つとして、"Cool Factor"的な何かを考える必要がある。
  • 見える化で重要なのは、理解しやすいI/Fが必要である。たとえばiPhoneのような、判りやすい表示方法を用意する必要がある。
  • 今後、Smart GridやSmart Energy、あるいはEnergy Savingが広く普及してゆくための重要な要因は相互運用性や標準化である

といった話が目を引いた。

最初の話に関しては、これはアメリカが他の国と比較してそれでもエネルギーコストが安く、しかも供給が潤沢であり、これが欧州あるいは日本と比較してエネルギー節約やSmart Energyの取り組みが遅れている大きな要因だという話も出てきたが、その一方でアメリカの半分の州ではエネルギー節約などに関する何らかの法令を策定するなど、政府主導の動きがあり、これがSmartGridやSmart Energyへの追い風になると期待されているという。Cool FactorはShimada博士の発言であったが、単なるインセンティブ以外の何かの尺度(博士の言葉を借りれば、"recognizable bland")が必要で、しかもそれは何かしらのCoolなDevice(博士は自身をBrackberry Nerdだと前置きした上で、BrackberryやiPhoneの様なSmart Deviceがこれにあたる、とした)でそれを確認できるような仕組みが必要になるとした。

最後の話もこれも重要な話で、Pecan Street ProjectにしてもThinkEcoにしても、今のところあくまでも自社/自プロジェクトの中でデータは閉じてしまっており、たとえば両者がデータを利用できるようにするためには、専用のGatewayを新規に作る必要がある。先にちょっと触れたとおり、こうした省電力の見える化は世界中でいろいろな事業者が手がけ始めており、しかも相互のデータ互換性もないし、そもそも標準化に関する動きも無いから、今はそれでもいいとしても今後は何かしら問題になることが予想される。この標準化に関しては、たとえば何らかの標準化団体が設立されるのか、それとも既存のサービスがそのまま標準として認知される形になるのか、今のところははっきりしないが、この既存のサービスという話を考えたときに、先の基調講演で出てきたWisReedが日本のAMIのデファクトスタンダードになりつつあり、さらにより広いマーケットを狙ってFreescaleと協業するということを考えると非常に興味深い動きであるといえよう。