――実装面や技術面で工夫した点があれば教えてください
有限会社ビバマンボ デジタルメディア部 エンジニアのSIHO氏 |
SIHO氏: 学生/受講管理のアプリケーションがすでにFileMakerで運用されていましたので、ポイントの計算や管理はすべてFileMaker Serverで公開されているファイルに集約しました。FileMaker GoでFileMaker Serverのファイルを直接開くのでなく、必要に応じてデータの取得/送信を行うようにしています。データの追加にはスクリプト引数を用いました。
ルックアップやリレーションの使用箇所もぎりぎりまで絞っています。このシステムは、ポイントを消費する際にFileMaker Server上のファイルにレコードを作成します。ここの実装はひとつのスクリプトで行っています。これは、iPad側にCPU負荷をかけないためと、データの道筋を整理しておくことで現場からあがるニーズに即座に対応しやすいためです。
また、最初はWebビューアを使用した方法も検討したのですが、これだと実装に時間がかかるのでやめました。さっと作って現場からのニーズを汲み入れながら調整するほうが、使われる皆さんが納得してくれるように思いましたので。使う人が楽しくなるには技術だけではなく、一緒に作り上げる楽しさもあると思うのですよね。なのであえて最初は作りこみはゆるめにして、一緒に考える時間をつくりました。
――運用面で苦労した点はありますか
SIHO氏: Bluetoothのバーコードリーダーから送られてくる文字列を読み取ってFileMaker Server側に問い合わせを送り、その結果を取得する部分でしょうか。Bluetoothのバーコードリーダーは文字列を1字1字送信してきます。その文字列を取得し、スクリプトトリガで一時停止の後に問い合わせを行いますが、この時間が短すぎると、バーコードを全部読み取る前に問い合わせが行われ、エラーになってしまう。逆に時間を長くセットすると、ユーザの待ち時間が長くなってしまう。この微調整に時間がかかりました。
――開発期間はどれくらいでした
SIHO氏: 昨年の12月頭にはまだバーコードリーダーを選定していましたが、年末には画面キャプチャを、年明けには動作するモックアップをお持ちしていたので……約3、4週間といったところでしょうか。浜谷さんとユーザインタフェースの微調整を行ったり、テストランを経て微調整を加えた期間を含めても、最初から最後までで2、3ヶ月ほど、実質の実装期間は1ヶ月程度だと思います。
――運用が始まってからの感想はいかがでしょう
服部学園 総務課長の浜谷奈央子氏 |
浜谷氏: 運用が始まって4ヶ月ほど経ちましたが、店舗のスタッフや学生から「使い方がわからない」という問い合わせを受けたことは一度もありません。操作マニュアルも用意していただいているのですが、それが要らないほどユーザインタフェースを洗練してもらっています。欲を言うなら、動作が若干遅いときがあるので、これが改善されるとありがたいですね。
――FileMaker Goを選んで良かったと思う部分があれば教えてください
SIHO氏: 開発工程では、エンドユーザから要望を出してもらい、打ち合わせでその内容を検討して、実際のシステムを修正するといった作業を繰り返します。FileMaker Proを使用していれば、そのサイクルを非常に短期間で済ませられるんです。
システムの開発でよくありがちなのが「何々をこうしてほしい→では社内に持ち帰り検討させていただきます。1週間後に~」というパターン。これでは、時間がかかってしまいます。それに対して、テーブル設計やUIのデザインを簡単に編集できるFileMaker Proでは、アプリケーションの修正がその場で行えます。現場の方々とのコミュニケーションをとりながら開発が進められるため、信頼関係も生まれ、お互いに仕事がしやすくなっていくんです。使われる方も「一緒に作った」という思いがあれば、よりいっそう愛着をもってシステムを使っていただけるのではないでしょうか?開発者としてもシステムに携わる方やエンドユーザの率直な感想を聞くことができるというのは、嬉しい瞬間でもありますね。
――校内のシステムについて、今後の展望があれば教えてください
東森氏: もともとiPadは触っているだけで創造的な気分になれますし、私たちのような美術デザインの学校とは相性が良いと思っています。これにFileMaker Goが加わることで、蓄積してきたデータを、校内を移動しながら、気分良く使えるという可能性を示していると思うのです。まず最初にポイントカードシステムが立ちあがりましたが、もっと教育現場に近いところで活かせないか、色々考えているところです。
――最後に、FileMaker社への要望があれば
SIHO氏・浜谷氏: 動作スピードが速くなればもっと便利になると思います。これは、iPadの進化にもかかわってくるでしょうが。それと、あまりパソコンに詳しくない方でも使い方がわかるように、画面上には必要のないボタンをなるべく配置したくないのですが……FileMaker Goのステータスバーは現在、非表示にさせることができません。運用現場ではいたずら防止用にプラスチック板を加工してボタンを押せないように工夫していますが、これらがソフトウェア側で対応していただけるとありがたいです。
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FileMaker Goがリリースされて1年が経過しようとしている。昨年のFileMakerカンファレンスでも好評を博していたとおり、FileMaker Goが活用される場面が増えつつあるようだ。
今回の事例の場合、「最初からアプリケーションをあえて作りこまないことで、刻々と変化するニーズに柔軟に対応できる」開発スタイルにも注目したい。運用がまだ固まりきっていないスタートアップの業務を徐々にシステム化したいときは、iPad + FileMaker Go + FileMaker Proのような、何回もの仕様の変更・動作改良に応えられるような柔軟性と機動力を兼ね備えた組み合わせが向いていると言える。
今後FileMaker Goがエンタープライズ市場においてどのように展開していくか、ユーザ/デベロッパともに注目したいところだ。