昨今のITシステムは大きく2つの形態に分けられる。1つは、自社でサーバやネットワーク機器を購入して運用/管理を行うオンプレミス型。もう1つは、データセンター事業者などが提供するオンラインのサービスを利用するクラウド型だ。
クラウドが現実的な技術として台頭してきたからこそ可能になった分類だが、システム管理者の中には、クラウドについて依然として「なんだかよくわからない縁遠い技術」という印象をお持ちの方も多いだろう。そこで本稿では、主に中小企業を意識し、オンプレミスとクラウドを比較しながら、両者の違いや選び方の指針を紹介しよう。
オンプレミスって何?
まずはオンプレミスについて簡単に説明しておこう。
オンプレミスは、従来から多くの企業で採用されている一般的なシステム形態だ。ハードウェアを自社で購入してオフィスやデータセンターに設置し、その上で各種のシステムを動作させるというものになる。
数年前までは1サーバ(ハードウェア) で1システム(OS/ミドルウェア/アプリケーション)というのが一般的だったが、最近では仮想化環境を導入して、1サーバで複数のシステムを稼動させるケースが増えている。これは、ハードウェアの性能が向上し、1システムだけではサーバの能力を使いきれなくなってきたことが大きな要因だ。また、無料のものも含めて安価な仮想化ソフトウェアが数多く登場したうえ、仮想マシンの状態を可視化したり、仮想マシンを自動的に制御したりできる管理ソフトウェアが充実してきたことも普及を後押ししている。
1台のハードウェアで複数のシステムを動かせることのメリットは多い。まず、ハードウェアの購入費用が不要になるため、単純に初期導入コストを削減できる。また、電力消費量や設置スペースも抑えられるため、運用コストの圧縮も可能だ。さらに、監視対象のハードウェアが減るため、管理工数の削減も期待される。特に管理工数に関しては、総務部が情報システム部門を兼務することが少なくない中小企業において大きな利点と言える。
クラウドってどんなもの?
一方のクラウドだが、こちらは自社でサーバ機器を所有することなく、インターネットでデータセンターなどに接続してITインフラを利用する形態になる。
ただし、一口にクラウドと言っても提供サービスはさまざま。その内容によって大きく以下の3つに分類できる。
- IaaS(Infrastructure as a Service) : CPU、メモリ、ネットワーク、ハードディスクなどのハードウェアリソースを、インターネット経由で利用できるようにしたサービス。データセンター側では、大規模な仮想化プラットフォームを導入して複数のサーバ/ストレージのハードウェアリソースをプールし(ひとまとめにし)、ユーザーが求めるリソースを好きなときに好きなだけ利用できるような環境を整えている。ユーザーは、OSも含め、ソフトウェアを自由に導入することが可能。IaaSの例としては、Amazon Web Servicesなどが挙げられる
- PaaS(Platform as a Service) : IaaSで提供されているようなハードウェアリソースに加えて、OSやミドルウェア、管理製品などもセットにして提供するオンラインサービス。ユーザーは自作したアプリケーションをアップロードしたり、PaaS事業者が認可したアプリケーションを導入したりして、環境を揃えることになる。IaaSと比べると必要なソフトウェアが一式揃っているため、ユーザー(システム管理者)の負担は少ない。PaaSの例としては、Windows Azure、Google App Engine、Force.comなどが挙げられる
- SaaS(Software as a Service) : インターネット経由で利用できる業務アプリケーション。インターネット環境とWebブラウザさえあれば利用できるため、導入に要する期間は短く、初期費用も非常に安く抑えられる。ユーザー数やデータ量に応じた月額課金体系になっていることが多い。Microsoft Office 365、Salesforce CRMなど、数多くのサービスが存在する
クラウドの利点は、初期導入費用が安く、導入期間も短い点。そして、何よりも、ITインフラの管理を事業者に任せられる点が大きい。当然、管理工数の削減幅についてはオンプレミスでの仮想化導入以上。中小企業にとっては、非常に有力な選択肢だ。
なお、サービスの自由度(カスタマイズ可能な範疇)については、SaaS < PaaS < IaaSという順で高くなる。ただし、自由度が高くなればなるほど、さまざまな管理作業も付いて回るため、高度な管理スキルと相応の管理工数が必要になる。中小企業にとっては、PaaS、SaaSといったあたりが現実的な解になるだろう。
ちなみに、上記の説明をご覧になってわかるとおり、クラウドサービスを提供する事業者側には仮想化環境が導入されている。その必要性はオンプレミス以上で、クラウドと言ったときには、「仮想化技術を使ってプールしたコンピューティングリソースをオンデマンドでユーザーに提供できる従量課金サービス」を指すことが多い(※)。通常は、"オンデマンド"を実現するために、サービスを購入するためのポータルサイトを用意し、申し込みを終えると即時に利用できるようになる仕組みも用意される。この点は従来のホスティングサービスと大きく異なる点と言える。
また、上記のクラウドの要件を満たす大規模な仮想化環境を自社に導入したケースでは、社内専用の環境であっても、"クラウド"の称号を得ることがある。こちらは、一般に「プライベートクラウド」と呼ばれる。
※ 仮想化環境を提供するVMwareでは、クラウドコンピューティングという言葉について、「オンデマンドで自動管理されたサービスとして提供される、仮想インフラの効率的なリソースプールを活用するコンピューティングアプローチ」と定義している。