マシンビジョンシステム
また、ムーアの法則で継続して増加するトランジスタの使い道としてはヒューマンインタフェースの改善という方向に進んでおり、当面はビデオやグラフィックスの専用ハードウェア化であるが、その先はマシンビジョンなどが有力視されている。このマシンビジョンに関して,東北大学の青木教授と東京大学の石川教授の招待講演が行われた。
青木教授の講演は、カメラで撮影された画像の振幅情報ではなく、位相情報に対して相関処理を行うという方法で画像のピクセル解像度より高い精度で画像の特徴点のマッチングを行うとPhase Only Correlationという方式に関するものである。
3D立体視を行うには2つのカメラで撮影した画像を比較し、写っている同一物体の位置のずれから距離を判定することになる。つまり、高い精度で奥行情報を得るためにはより高い精度で位置のずれを検出する必要がある。
画像の比較に関して、青木教授は次のような興味深い図を示した。左側の2枚の女性の写真をそれぞれ2次元フーリエ変換して振幅情報と位相情報に分離し、上下の写真の位相情報だけを入れ替えてから逆フーリエ変換したものが右側の図である。
これらの右側の図にみられるように、位相情報の方が元の画像の特徴を多く含んでいることが良くわかる。また、画像の位置がずれると位相のずれが(空間)周波数に比例して増加することから、この比例関係の傾きを計算することで1/100ピクセルという高精度で位置ずれを測ることができるという。
この青木教授のPOCシステムは電子部品の位置合わせや製本のバインド工程での落丁を監視するシステムなどに実用化されている。また、網膜パターンや掌紋の認識、身元不明死体の鑑識に使われる歯のレントゲン写真の比較などの研究成果が紹介された。車に搭載される前方監視システムについても従来のシステムより明瞭に路面やマーカーなどを認識できるという。
POCシステムはこのように高性能であるが、計算量が多いので1TFlops程度の性能が必要であり、これを安価の低電力で実現することが1つの課題であるという。
石川教授のアプローチは、1000fpsという高フレームレートのカメラを使って、高速で移動する物体をとらえるというものである。そして、高速の目と高速のロボットアームの系を開発している。
石川教授は、このような系でバッティングロボットなどを開発している。高フレームレートのカメラではフレーム間の物体の位置ずれが小さいので、認識アルゴリズムが簡単で済むというメリットがあるという。しかし、処理量はフレームレートに比例するので高性能の並列処理が必要でありコストが高くなる。
これらのマシンビジョンシステムは,現状では,まだ,コストや電力の点で用途が限定されているが,センサーや処理系のハードウェアの開発と認識アルゴリズムの改良により,近い将来,広く使われていく重要な技術になると思われる。
ポスター発表の表彰
多くの学会では、主に大学院の学生が研究を発表するポスター発表という場を設けている。COOL Chipsでも従来からポスター発表は行われていたが、今年から、出席者の投票で優秀発表を選び、表彰することになった。
今年は19件のポスター発表が行われ、東北大のMamoru Miura氏らのポスター発表がベストポスターに選ばれた。青木教授が招待講演を行ったPOCによる認識をGPUを使って行うという研究である。
また、当初はベストポスターだけの表彰の予定であったが、投票の結果が伯仲していたということで、3件のポスター発表をベストフィーチャーとして追加表彰した。その1件は慶応大学のMai IzawaさんらのSLD-2プロセサの実装と評価の発表である。SLD-2はこのレポートで紹介したSLD-1の後継で、PE数を8×10と増加し、マイクロコントローラをパイプライン化して性能を向上させるなどの改善が行われている。
2件目は会津大のAbhijeet A. Ravankar氏らのアレイ状に配置されたコア間を接続するネットワークの研究で、接続スイッチを工夫して各種のサイズのメッシュ接続とトーラス接続を可能としている。3件目は筑波大学のToshihiro Hanawa氏らのPCI Expressを伝送路として使い、計算ノード間を接続するPEACHと呼ぶインタコネクトLSIを開発したという研究発表が受賞した。