カメラの色調が機種ごとに異なっている事情

やや横道にそれるが、カラーコレクションを理解するために、カメラの色調について説明したい。カメラの色調というものは、メーカーごとに異なっている。それはホワイトバランスが個体ごとに異なるというレベルではなく、RGB信号をYPbPr信号に変換する際のカラーマトリックス自体が違うために、異なる機種を混ぜて撮影すると、どんなに編集で頑張っても、同じ色調での仕上げが難しいのである。

特に放送用のカメラと家庭用のカメラの組み合わせでは、カメラ間の設計思想が異なるために性質が悪い。放送用カメラが国際標準のITU-R BT.601ないしBT.709に準拠した色変換を行っているのに対し、家庭用カメラは素人受けしやすい色調を各メーカーが勝手に作り出しているためだ。

特定の色だけを強める処理が色調統一最大の障害

その方法として、アナログ時代にはI信号を持ち上げるという手段がとられていた。デジタル時代の今日でこそ、撮像素子から送られるRGB信号は、YPbPr信号に直接変換されて記録されるが、アナログ時代には、NTSC信号生成の中間過程で、YIQというコンポーネント信号を使用していた。そこで肌色に近いI信号を伸張させることで、人肌をより鮮やかで健康的に見せる工夫を行なっていたのである。

その流れはデジタル時代の今日にも受け継がれているようで、家庭用カメラの色調は、各社共に赤-黄色系統の彩度を選択的に持ち上げている傾向が見受けられる(画面6、7)。これを放送用カメラの色調に合わせるためには、逆に赤-黄色系統を選択的に下げる操作が必要になるが、RGB成分のRを下げても、単にホワイトバランスが狂うだけで目的は達せられないのである。 

画面6、7

画面6:業務用カメラによるマクベスチャートのベクトルスコープ画面。テレビ映像はこの色調が基本となる
画面7:家庭用カメラによるマクベスチャートのベクトルスコープ画面。Cr軸に33°で交わるI軸からCr方軸にかけての色成分を選択的に引き上げていることがわかる