使えるアイデアを生み出すコツ

これまでホームページ・リーダーをはじめさまざまなアクセシビリティ技術を研究開発するとともに、精力的に論文を発表してきた同氏だが、どのようにしてアイデアを生み出しているのだろうか?

同氏は「『素人発見、玄人実行』という言葉がありますが、まずは自分が困っていることを基点に考えます」と話す。例えば、やろうと思っていたこともついつい忘れてしまうことがあり、困っているとしよう。同氏はPC上にメモをとり検索をかけるということを試してみたそうだが、「これではベストの解決策とは言えない。もっといい解決策があるはず」と、もっとよいアイデアはないかと思いを馳せる。

「自分が見つけた問題を解決するために、今のインフラで何ができるかということを考えます。あとはあきらめないことが大切です」

また、いろいろな人の知恵が出し合える環境も大切だという。「私は目が見えませんが、周りの研究仲間は見えています。また、各人、得意なこと、他の人とは異なる才能を持っています。異なる特性を持った人たちの組み合わせがよかったのです」と同氏。

ある日、同氏がWebページでありえない動きを見つけ、詳しく調べても原因がわからないということがあった時、Javaスクリプトに詳しい研究者がその原因をあっさり解決してくれたという。「いろいろな人が集まっているからこそできたこと」と同氏は話す。

加えて、自分で問題を見つける際も簡単すぎてはつまらないので、「問題空間を決めること」も重要だそうだ。

こんなに前向きな同氏だが、「現在の技術では今世紀中には絶対に解決できないと思ったことには手は出さない」とキッパリと話していた。

自分の仕事の5年先、10年先を考えてみよう

最後に、日本のITエンジニアに対するメッセージをうかがった。数々の偉業を成し遂げてきた同氏から、学ぶことはたくさんあるはずだ。

「ITエンジニアと一言でも言っても業務の幅は広いですが、どのような分野であってもITはこれからもっと人にとって密接なものになっていきます。だからこそ、常に自分のやっている仕事が5年後や10年後に"人にどのように使われているだろうか?"、"どのようにあるべきか"といったように、一歩先のことを考えながら研究や開発を行っていくと、次世代の人につながるITを作っていけるのではないかと思います」

同氏は加えて、「楽しむことも大切」と話した。「自分にできることが見えていて、それに向かってがんばれるかと思うと楽しいですよね」

「私はたまたま目が見えなくて、それに関連した開発に関わることができました。ITエンジニアの方々が業務の中で学んだ知識や研究の成果は、必ず次の世代につながります。ぜひ、自分にとって楽しいことを見つけてください」と、同氏は締めくくった。自分自身が仕事を楽しんでいなくては、よい成果は出ないのかもしれない。

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「アクセシビリティにはいろいろな入口があります。私は人間の行動を分析して、障がい者や高齢者を入口として、最終的にはみんなが使える技術にしていきたいと思っています」と話す同氏。アクセシビリティに対する固定観念を根底からひっくり返すとともに、テクノロジーの無限の可能性を教えてくれた。

そして、自分は技術者ではないため、もちろんテクノロジーで何かを作り出すことはできないけれど、編集という立場からテクノロジーの進化を世に伝えていくという形で、テクノロジーに少しでも関われることを幸せに感じた。

画面からはお届けできないのが実に残念なのだが、同氏は周りの人を引き込むような強いオーラに包まれていた。それは、「次世代のテクノロジーを作っていきたい」という意思をもって研究開発に臨み、着実に成果を上げられているからだろうか。

お話を伺うなか、「自分もできることを見つけ、次世代のためにがんばろう」というエネルギーを分けていただいた。このインタビューで読者の方に少しでも同氏のパワーが伝わればと思う。

「今は詳しくは話せないのだけれど」と、まだいくつも面白い研究テーマを持ってらっしゃる様子だった同氏。これからも日本を代表する研究者として、力の限り活躍していただきたい。