出版業界の問題点は人材にあり
――野球は別として、三田先生はこれまで受験、就職活動、会社経営など、地味な競い合いを面白いエンタテインメントとして読ませるというスタイルを得意としてきた漫画家という印象があります。
三田「僕が他の作家と違う部分として、オーダーメイドが多いという要素があります。『こういう作品を書いてください』という依頼が非常に多いんです。漫画業界も非常に厳しいですし、新しいビジネススタイルを模索している。そのひとつとして、企業が自社の宣伝活動というか、仕事の内容を伝えたいという意図があり、そのために漫画という手法が選択され、そこから企画がスタートするという場合があります。そいういう作品は、大抵の作家さんは嫌がります。なぜかと言うと、そこに価値を見出せないし、生み出せないからです。そこを僕は、物語としても面白くして、企業宣伝というか、そういうニュアンスを違和感なく盛り込むということをやってきました」
――三田先生自身は、そういったオーダーに関係なく、自由に描いてみたいというお気持ちはあるのでしょうか?
三田「ありますね。漫画家をずっと続けていく過程で、私には『ドラゴン桜』という大ヒット作品があり、どの出版社もそれを私に求めてきました。『ドラゴン桜』みたいな作品を描いてくださいという依頼が当たり前だったんです。それに応じて、そういうスタイルの作品をいくつか提示してきたのですが、自分の中でそういう時期は終わったと思っています。今は作家として、自分が描きたい作品を描くという時期に入ったと思っています」
――出版不況といわれていますが、三田先生は漫画業界の未来に関して、どのように感じていられるのでしょうか?
三田「世界経済自体の問題もあるので、出版に限らず全体の経済規模が減少傾向にあるのは仕方ないと思います。ただ、僕はわりと楽観しているんです。まだ、工夫次第で生き残れると思います」
――どのような工夫が必要なのでしょうか。
三田「当然ですが、商売の手法と人材に関する部分での工夫ですね。ほんの数年前までは、出版社は漫画という商品を一次使用するというビジョンしかなかった。それで利益が出ていたうちはよかったんです。これからは、人気連載を単行本にしますというだけでは難しいと思います。キャラクタービジネスというものはありますが、漫画に関しては2次利用、3次利用まであらかじめ考えて展開するというノウハウが、出版社側に欠けていたと思います。そういう部分に出版社も人材を投資すれば、もっと変わると思います。出版社には、編集という人材はいるのですが、商売をする人材が少な過ぎると思うんです。その部分をもう少し充実させる必要がある。作家から見ても、まだ力不足。コンテンツを創るだけで精一杯という印象があるんですよね。その先の部分まで商売にしていく力を出版社がもっと持つことが必要だと思います」
『ドラゴン桜<韓国版>』 |
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原作"ドラゴン桜" (C)2003 Norifusa Mita, published by Kodansha Ltd.
インタビュー撮影:石井健