痛みの伝わる映像を目指して
――この映画のリアルという部分では、スポーツ物ということでボクシングシーンも重要だったと思うのですが。
李「ボクシングのトレーニングは撮影2カ月前からスタートしています。役者の集中力が凄くて、クランクインの2週間で、それまでの2カ月よりも、はるかに進歩して皆ボクサーらしくなってくれました。『これは、行ける』と思いましたね。ふたりのボクサーとしての役作りも切磋琢磨している感じで、映画同様、トレーニング自体もふたりで競い合っている感じでしたね」
――試合のシーンは、カット割りが少なく、かなりリアルに感じたのですが、どの程度脚本で試合の段取りは決められていたのでしょうか。
李「大まかな流れは決めていたのですが、細かい部分は試合する役者同士に任せています。動きを決めすぎると、演舞というかダンスになってしまうんですよ。役柄ごとに、ボクシングのスタイルがあるので、それに沿ってある程度自由に動いてもらいました。ジャズ演奏に近い感じです」
――パンチはどの程度当てているのですか?
李「ほとんど当てています(笑)。当てない前提で撮影するはずだったのですが、いつのまにか全部当てることになってました。ただ、リアルさも大切なのですが、映画的な『画』を見せるため、ヘッドギアも顔がよく見えるようにデザインを変えてありますし、グローブも実際のものよりも小さめになっています。アマチュアの大きなグローブのままだと、どうしても画にならないんですよ。小さいグローブで実際にパンチを当てていたので、役者は大変だったと思います」
――主演のふたりは人気者なのですが、ボクシングという題材ゆえ、女性向きでない映画という印象もあります。女性の観客を意識された部分はあるのでしょうか?
李「カブは強いけど、沢山打たれてるんですよ。ボクシングに興味のない女性にも伝わるよう、痛みや辛さを伝えられる画作りをしました。映画としては、女の子が観ても気持ちいい男の子の友情を描きたかった。女の子が見れる男の映画にしたかったというのはありますね」
――アウトボクシング、スイッチボクサーなども、本編では重要なファクターです。こういった専門的な部分に関して、観客に伝えるのが難しい部分もあったのではないですか。
李「そうですね。普通のボクシング映画なら、解説者がセリフで伝えてくれるのですが、今回はアマチュアなのでそれができない。ボクシングのロジカルな部分をどう伝えるかは苦労しましたね。その足りない分は、痛みや辛さといったエモーショナルな部分で伝えようと思いました」
――主人公のふたりだけでなく、ヒロインの谷村美月さんや、サブキャラたちも皆輝いていましたね。
李「全員は無理なんですが、それは強く意識しました。たとえ脇役でも、『この人がこれをやっている理由』などは求めました。僕は演出時に、役者がその芝居をやっている理由を求めるんです。それを追求していくことが、キャラクターをはっきりさせていくということに繋がっていくと思います。特に主役のふたり以外のボクシング部員には、はっきりしたキャラクターがなかったので、それは考えていきましたね」
――DVDでこの作品に触れる人にひとことお願いします。
李「映画のDVDを買う人って、『この映画、凄い面白い』というだけでなく、『もう一度あのシーンを見たい』みたいな強い気持ちがあると思うんですよ。ボクシングシーンはもちろんですし、この作品では2010年時点での、市原隼人と高良健吾の魅力のすべてを絞りきっていると思うんです。ふたりはほかにも、色々な作品に出ていますが、この作品こそが2010年の魅力の全てを記録している作品なので、何度も観てほしいですね。市原君と高良君自身も、いつか見返したくなる作品だと思いますよ」
――これから李監督はどのような作品を創っていきたいのでしょうか?
李「韓国の映画祭に『ボックス!』を出品したのですが、その反応で韓国と自分の作風が合う気がするんですよ。韓国映画を1本監督してみたいですね。後は、女性が主人公だったり、僕が監督しなさそうな映画、例えば純粋なラブコメなんか監督したいですね。実は、今ホラーコメディの企画が韓国で進んでいるんですよ」
――李監督も世界進出ですか?
李「そう、世界に打って出たいですね。世界といっても僕の場合は大阪の新世界方面ですが(笑)」
「ボックス!」DVD&Blu-ray 11月26日リリース |
(C) 2010 BOX! Production Committee
撮影:中村浩二