岩本晶氏からは、自身が監督を務めるドラマ『もやしもん』のメイキングの紹介が行われた。『もやしもん』の原作は石川雅之氏が講談社刊『イブニング』で連載中の漫画であり、2007年にフジテレビでアニメ化され、映像を同社が担当した。
そして今年7月、ドラマ『もやしもん』がスタートした。同ドラマの特徴は2Dと3Dが融合されている点だ。
「『もやしもん』は菌を見ることができる能力を持った大学生が主人公で、ドラマにはたくさんの菌が出てきます。アニメで表現した菌の独特の動きを実写でも再現することが大切なのです」と同氏。『もやしもん』は実写の上に菌の動きをCGで重ねていくという行程によって製作される。俳優の方々には後から菌が加わるという前提で演技をしてもらうという。
例えば、冬に入学シーズンの映像を製作しなければならない場合、CGを使って枯木に桜の花を咲かせる。デモで見せてもらった映像はフレームが1,400にも及び、その処理の用いられるリソースの大きさがうかがわれた。
「ソフトで映像をプレビューする場合、メモリに画像がキャッシュされるため、大容量のRAIDとメモリが必要になります」
『もやしもん』の売りは「菌」と先に述べたが、同氏は「アニメなので、菌はかわいくなければいけません。しかし、CGは歴史が浅いため動きがどうしても硬くなってしまいます。そこで、"どうしたら柔らかい動きを出せるか"ということに力を注ぎました」と説明した。
具体的には、菌に骨格を入れてFlexによってコンテンツを製作したそうだ。「菌の骨格を用いて、ツノが揺れる様子を表現しました。これにより、"柔らかさ"や"かわいさ"を演出しています」
『もやしもん』のプロデューサーを務める田中尚美氏は、「マシンやソフトを使うCGは製作に時間がかからないと思われていますが、それは誤解です」と話した。
ITによって短縮された時間はコンテンツのクオリティを向上するために使われている。「時間があれば、その分仕上げの作業に割くことができます」と同氏。
今回、アニメ『もやしもん』の菌のデータを活用することで作業の効率化を図れたが、「こうしたことができるのは白組だけ」と、同氏は自信を見せる。効率化の結果、菌の数をアニメよりも20体増やすことができたという。
また同氏は、製作プロダクションとして映像製作に関わることの強みを教えてくれた。「製作プロダクションは納品の責任を持っているため、予算もすべて管理します。そのため、予算をスタッフと設備投資にバランスよく配分でき、その結果、アーティストが必要とするマシンなどを購入することが可能になり、よい作品につながるのです」
なお、同社は自社のIT活用・運用のノウハウを競合のプロダクションにも惜しみなく提供している。鈴木氏はその理由について、「プロダクション同士がコミュニケーションを図れば、最終的に業界全体が成長します。だから、私たちは自分たちのITのノウハウをいろいろなプロダクションに教えるのです」と説明する。
各種ハードウェアやソフトウェアを利用して感じたことは、ベンダーやディベロッパーにも伝えるという。こちらは、フィードバックすることで、よりよいプロダクトを作ってほしいという気持ちからだ。
同氏は、「同じことばかりしていては業界が縮小してしまいます。新しい人、企業が参入してくることで、業界は拡大していくのでる。そのために、私たちは安定した技術に頼るのではなく、最新のテクノロジーに挑戦していきます」と熱く語った。
一般に、企業のITシステムにとって「安定稼働」が最重要課題であり、最新のIT製品が真っ先に導入されることは少ない。同社はクリエイティブな業種ということもあり、一般企業と一概に比べることはできないが、「ITを最大限に活用してよいモノを作っていきたい」という同社のマインドは見習う価値があるだろう。
「これからは3D、タブレットに注目したい」と語っていた白組の方々。今後、どれほど斬新な作品を作り出してくれるのか楽しみだ。