デジタル補正を担当するエンジニアは誰か
続いて長谷川氏が「DAAとアナログエンジニア」と題して講演した。まず、DAA(デジタル・アシスト・アナログ)技術には大きく分けると2種類の方式が存在することを示した。1つは、アナログ回路そのものをデジタル技術で補正するというもの。校正またはキャリブレーションと呼ばれる。もう1つは、アナログ回路の出力信号をデジタル技術で補正するというもの。後処理またはポストプロセッシングと呼ばれる。
ここで問題となるのが、デジタル補正を誰が担当するのかだ。具体的には、アナログ設計者が担当するのか、デジタル設計者が担当するのか、である。長谷川氏は「校正/キャリブレーション」の場合、デジタル回路設計はアナログ設計者の仕事の範疇だと述べていた。対象がアナログ回路そのものであること、仕様の細分化による煩雑さを防ぎたいこと、それから質疑応答ではデジタル設計者にとってはモチベーションが高まらない業務であることを、理由として挙げていた。そうなると、アナログ設計者がデジタル回路設計ツールを扱わなければならなくなる。一方、「後処理/ポストプロセッシング」のデジタル補正は、デジタル設計者が喜んで担当してくれるという。
無線トランシーバの可変抵抗にデジタル技術を導入
それから濱田氏が「無線トランシーバにおけるデジタルアシスト技術」と題して講演した。濱田氏はまず、無線トランシーバでは、デジタル制御によるチューニングがきわめて重要であると説明した。このチューニングには例えば可変抵抗を使う。可変抵抗の分解能を上げようとするとCMOSスイッチの数が増大し、しかもCMOSスイッチのオン抵抗を下げようとするとトランジスタが大きくなってしまう。大きなトランジスタを数多く用意しなければならない。これは消費電力とコスト(シリコン面積)の増大を招く。
この問題を解決する回路方式として、1個のスイッチで可変抵抗を実現する回路を紹介した。2個の直列接続された抵抗器の1個に並列にスイッチを取り付け、スイッチを高速に開閉(オンオフ)する。するとスイッチのオンオフのデューティ比によって抵抗の平均値が決まるようになる。この回路だとスイッチが1個しかないので、トランジスタが大きくても、無線トランシーバ回路全体のシリコン面積にはほとんど影響せずに済む。
ただし高速のスイッチングによる雑音が発生し、SN比が低下するという問題がある。そこでスイッチの制御信号に高周波の疑似ランダム信号を与える対策を考案し、実際に雑音抑制効果があることを示していた。
アナログ・マイスターの講演後に設けられた質疑応答の時間では、DAA設計の課題として、テスト・パターン作製の難しさ、デジタル雑音の混入、本来のアナログ回路設計力の強化などが挙がっていた。DAA設計は「ようやく製品化ができそうな段階」(松浦氏)。数多くの課題を抱えているものの、アナログ設計に必須の技術であると現状認識をアナログ・マイスターは共有していた。今後の発展を期待したい。