さて、今回の本題となるのは新サービスの「Chatter」だ。これまでも何度か紹介されており、ここで改めて多くを説明する必要はないだろう。簡単にいえば、Facebookの情報共有やステータスのアップデート機能に、Twitterのようなフォロー/アンフォロー機能やリアルタイム性を組み合わせ、エンタープライズ用途で利用できるようにしたものだ。友人同士とのコミュニケーションが中心のFacebookやTwitterとは異なり、Chatterはそのベースがあくまでエンタープライズでの利用を想定している。情報を共有する相手は仕事仲間であり、共有する情報はSalesforce.comなどに蓄積されたデータベースのものだ。またチームのメンバーや情報へのアクセス権限など、こうしたユーザー管理の仕組みは企業システムのそれを反映している。コミュニケーションの迅速化を図る一方で、システムのデータベースと連携を図れなければならない。今回のデモではそうした事例が多数紹介された。

Chatterのステータスは各ユーザーのダッシュボードから逐次確認できるようになっており、必要に応じてディスカッションを呼び出すことができる。このChatterのメンバーやダッシュボードの内容は、業務や部門によって異なるのが1つのポイントとなる。

また使いやすさのポイントとしては、デバイスや場所に限定されない利用環境にある。これまでも、iPadなどからWebブラウザのMobile Safariを使ってSalesforce.comやChatterにアクセスすることは可能だったが、今回初めてiPad用の「Chatter」アプリが公開された。基本的にはPCのWebブラウザでできることと大差はないが、画面のローテーションによってメニューの有無や表示領域を拡大できたり、ピンチ動作によって貼付書類のプレビューが可能など、iPadならではの操作体系を利用した仕組みが導入されている。また何より、バーチャルキーボードにより必要時以外は重いPCを持ち歩く必要がないため、営業マン用の移動アイテムとしての活用に向いているだろう。

Benioff氏は最近iPadに入れ込んでおり、「これまでで最も優れたネットワーク・コンピューティング・デバイス」と絶賛している。iPadにおけるSalesforce.comとChatterのプッシュはこれを反映したものとみられ、特別ゲストとして米Apple iPadワールドワイド製品マーケティングVPのMichael Tchao氏をステージに招いた。またBenioff氏はことあるごとにiPadを持ち歩いてプレゼンを行っているようで、イベント直前の日本訪問では民主党の鳩山由紀夫前総理大臣と会見し、鳩山氏がこのデバイスに非常に興味を持っていたことを記念写真とともに紹介している。

とはいえ、モバイル活用できるのは何もiPadだけではない。次いで登場した米Dellコンシューマ&SMB部門CIO兼VPのJohn Miles氏は、発売したばかりの新端末「Dell Streak」を披露。このStreakを使ってSalesforce.comやChatterにアクセスする様子を紹介した。StreakはAndroidを搭載した5インチサイズのタブレットであり、今後こうしたAndorid搭載タブレットが多数市場に登場することになる。スマートフォンも含め、こうしたモバイルとエンタープライズ・アプリケーションを組み合わせた事例は今後も増加してくるだろう。

ステージ上のデモではスマートフォンを使ってその場で撮影した写真と位置情報を使って、Chatterのステータスや情報を素早くアップデートしている様子が紹介されており、今後こうした仕組みを応用したアプリケーションがAppExchangeに多数出現することになるかもしれない。

インターネットのトレンドの変革。滞留時間が長く、ユーザーの普段の活動に密着しやすいソーシャルメディアの利用比率が伸びており、それに応じて利用サイトや利用デバイスにも変化が起きている

こうしたトレンドを受け、サービスや利用デバイスを新トレンドに適合させたのが、同社のうたう「クラウド2」となる。また昨今のAppleとMicrosoftの時価総額逆転の話を例に挙げ、デスクトップ中心のアプリケーションから、より新しいアプリやデータの利用形態が広がっていることも強調する(これも冒頭であったMicrosoft攻撃の一種だ)

ここで登場するのが、最近同社が強くプッシュしている「Chatter」機能だ。エンタープライズSNSとも呼べるこの機能は、現在までベータ状態での運用が続けられており、22日時点で初めて全ユーザーへの製品版一般公開となった。また同時に、Force.comやSalesforce.comのアプリケーションを利用していないユーザーでもChatterに参加できるよう、第三者向けのChatterアカウントを1ユーザーあたり月額15ドルで提供していくという

米Salesforce.com製品マーケティングSVPのKraig Swensrud氏。Chatterの活用例を紹介する

これがSalesforce.comの通常のダッシュボード。画面はセールス部門の例だ

Chatterを呼び出したところ。メンバーのステータスやアップデート情報は先ほどのダッシュボード上からも確認できる

作業ファイルを貼り付けて、MicrosoftのSharePointにあるようなコンテンツレポジトリ兼ディスカッションボードのような機能も利用できる。Chatterの特徴はユーザー情報や各種データがSalesforce.comのデータベースと連動していること、またTwitterライクな情報のリアルタイム性も兼ね備えており、素早い情報のアップデートや対応も可能な点で特徴がある

最近Benioff氏がお気に入りの「iPad」。PC以外のデバイスから自由にサービスを利用できることをうたっているだけあり、iPadのMobile SafariからダッシュボードやChatterの機能をそのまま利用できる

そしてこれが今回初公開となるSalesforce.comの「Chatter」アプリ。バーチャルキーボードでログイン情報を入力すると、Chatter画面が出現する。ポップアップウィンドウ形式でのユーザー情報確認やチャット画面、貼付ファイルの確認機能、画面を水平方向にローテーションさせると出現するショートカットメニュー、そしてiPad特有の機能となるピンチ動作によるファイルプレビューなど、Webアプリ版にはない機能が多数用意されている

このChatterアプリはiPadだけでなく、iPhoneからも利用が可能。もっとも、iPadをつねに携帯するユーザーは少ないと思われるため、iPhoneから利用できるほうがモバイル向けアプリとしては現実的だ

米Apple iPadワールドワイド製品マーケティングVPのMichael Tchao氏が登場。Tchao氏はAppleファンの間で非常に有名であり、あの「Newton」デバイスを開発した人物として知られている。その後しばらくAppleを離れていたが、iPadローンチに向けて米Apple CEOのSteve Jobs氏に呼び出されていたようだ

Benioff氏とiPadを手にした鳩山由紀夫氏の記念ショット。紹介文が"元(Former)"総理大臣となっている点が微妙に哀愁を漂わせる

米Dellコンシューマ&SMB部門CIO兼VPのJohn Miles氏は最近同社がリリースしたばかりの「Dell Streak」を披露。Androidを搭載した5インチのタブレットデバイスで、ここから問題なくChatterが利用できることを紹介した

話は再びPC経由で利用するChatterに。こんどはセールス部門ではなく、コールセンターでの利用事例を紹介。ダッシュボードの内容が変化している点に注目。左上には電話コール受付のためのアプリケーションが用意されており、電話コールを受けると対象ユーザーのプロフィールや位置情報などが表示され、過去の類似トラブルや不具合情報などをナレッジベースから素早く検索できる

今回例として挙げられていたのはコンピュータメーカーのコールセンター。相談内容はメモリ増設に関するトラブルで、ナレッジベースを検索すると社内のメモリ増設マニュアルを参照できる。ただ、現在のユーザーはGoogle検索で自らトラブルシューティングを行ったり、環境しだいでは直接Webサイトを見ることが可能なため、そうした場合は社内マニュアルをあらかじめ外部公開して、自由に参照できるようにしておくのも手だ。先ほど電話してきた該当ユーザーには、あらかじめ登録されたメールアドレスに、このオンラインマニュアルのURLを添付して送付すればいい

コールセンター要員だけで手に負えないトラブルの場合、案件を昇格してエンジニアらを巻き込むことで、トラブル解決の迅速化を図る。画面の例では案件レベルを昇格したことでChatterの参加ユーザー数が増え、より具体的なディスカッションが進んでいる

最近のユーザー相談窓口は電話や電子メールだけではない。Twitterのようなツールが活用される事例もある。iPhoneやAndroid携帯のようなデバイスなら、その場で写真を撮影してトラブル内容を詳細に報告し、あるいはGPSによるジオロケーション機能を使って場所を知らせるなど(事故や物件紹介などでは有効だろう)、よりモバイルやSNSを活用することが可能だ

今年2010年12月に開催されるDreamforce 2010のアナウンス。例年よりかなり遅い12月初旬開催となっている。ゲストにはスティービー・ワンダーとビル・クリントン元大統領が登場予定