より迅速に、正確なドキュメント制作を実現するために

レイアウト作業には時間を掛けたいが、反面、情報の正確さや競合他社との差別化を図るためには、デザイン力だけでなく仕上げまでのスピードが重要だ。作業時間を短縮するには、これまでの経験から「何に一番時間が掛かっていたか」を考える必要がある。その最たるものが「校正作業」だろう。校正作業は「ドキュメントを確認して修正を入れ、それを適用する」流れが一般的だが、実際には、修正を待っていたり、受け渡しに時間とコストを掛けていたりと無駄も多い。また、校正担当者が数社にまたがっていたり複数人いる場合は、バラバラに入れられた赤字をまとめ、さらに各担当者に確認を取り、編集側が整合性を取る必要がある。このタイミングで「誰がどんな赤字を入れたのか」が分からなくなり、修正した/しないの水掛け論によるトラブルも起きがちだ。

Adobe InDesign CS5では、校正担当者が複数いる場合もテキスト修正の内容を個別に保持し、適用またはスルーを決定できる「トラック機能」が搭載された。そして、ドキュメントをオンライン上に公開し、同時に閲覧しながら注釈ツールを使って修正を加える機能も搭載されている。PDFによるオンライン校正が主流になり、上記の方法ではAdobe InDesign CS5が校正担当者の手元にも必要になるが、作業条件が許せば新しい校正ワークフローのひとつとして取り入れる価値はあるだろう。

ウインドウメニューに加わった「編集関連」メニューから「変更をトラック」を選択

「変更をトラック」ウインドウで、左端のボタンをクリックする

テキストを修正した内容は、「変更のトラック」として管理される

ストーリーエディタ表示に切り替えると、変更されたテキストがハイライト表示になり、元のテキストに横線が引かれているのが分かる。そのまま「変更を適用」ボタンをクリックすると、テキスト修正が適用される

クロスメディア化でWeb媒体のレイアウトもOK

印刷用ドキュメントをWebに展開する場合、そのドキュメントはWebのルールに沿って作られていなければならない。また、アニメーションやムービーといった動きのあるコンテンツをレイアウトに取り入れる場合はAdobe DreamweaverなどのWeb専用ソフトが必要。Webと印刷では制作ルールが違うから、ひとつのレイアウトを使い廻すことは簡単ではないというのが、これまでの考え方だった。

では、Adobe InDesign上でアニメーションやムービー、モーションパスといった効果を直接読み込み、設定できるとしたらどうだろう。たとえば雑誌の紙面デザインで、印刷用とWeb用のドキュメントをレイヤーに分け、印刷用には静止画、Web用には動画とレイアウトできれば、グラフィックデザイナーの仕事量は極端に軽くなる。わざわざWeb用ソフトを起ち上げ、印刷用データをお手本にレイアウトを作り直す必要もない。

Adobe InDesign CS5では、Web用ファイルフォーマット(FLV、F4V、MP4)を直接レイアウトに配置することが可能となり、ボタンやアニメーションも直接作成・編集できるようになった。アニメーションのモーションプリセットはAdobe Flash Professionalと共通で、新たに搭載された「アニメーション」パネルや「プレビュー」パネルで動きを加えたり、結果をプレビューすることができる。こうした機能一つ一つは、コードを描かずにパネル上で設定できるので、高度なスキルも必要ない。デザイナー自身がイメージするインタラクティブなドキュメントをそのまま具現化できるため、これまで敷居が高かったワンソース・マルチユースも簡単になった。

「アニメーション」ウインドウでは、オブジェクトに対してAdobe Flash Professionalと同じ効果を適用できる

「リンク」ウインドウを見ると、flvファイルが直接InDesignに配置されていることが分かる

Adobe InDesign CS5で何が変わる?

もはやAdobe InDesign CS5は、印刷に向けたレイアウトソフトという既存の捉え方では収まらない進化を遂げた。これからデザイン業界は、専門媒体に縛られないワークスタイルが求められるようになるだろう。紙媒体のデザイナーがWebを手掛ける、あるいは電子出版用データを作る、逆に、Webデザイナーが紙媒体を手掛けることも増えてくるだろう。このとき、アプリケーションの使い方に精通していてもデザインのクリエイティビティが高くなければクライアントを満足させることは難しい。重要なのは、アプリケーションの使い方ではなく出来上がったデザインの仕上がりになるわけだ。

これまでは、異なる媒体に対応するためアプリケーションの使い方や固有のルールを学ばなければならなかった。Adobe InDesign CS5では、ようやくこうした縛りから解放されそうだ。発表する媒体の違いを感じさせず、デザイナーはデザインに集中できるプラットフォームとして、Adobe InDesign CS5は新たなスタートを切ったと言えるのではないだろうか。