米国時間の5月19日に米サンフランシスコでGoogleの開発者カンファレンス『Google I/O 2010』が始まった。初日の基調講演で同社は、Web向けに最適化された動画コーデックVP8のオープンソース化Webアプリストア「Chrome Web Store」「Wave」の一般公開などを発表した。

オープニングに登場したバイスプレジデントのVic Gundotra氏。Google I/Oの"I/O"は開発者が最初に意識する"インプット/アウトプット"、そしてWebカルチャーの"イノベーション/オープン"をあらわすと挨拶

昨年の米国のGoogle I/Oは、Web産業の歴史に刻まれるようなイベントだった。エンジニアリング担当バイスプレジデントVic Gundotra氏が「Webのプログラミング・モデルが主流になる時を迎えた」と宣言。オープンなWebプラットフォームの進化を加速させるテクノロジとしてGoogleが「HTML5」を大々的にアピールしたことで、HTML5への注目が高まり今日の大きな流れにつながった。

昨年と同じ会場だが、参加者は昨年よりも多い5,000人。昨年の影響からか、過去最速でチケットが売り切れた

WebブラウザのHTML5サポートの向上とともに、この1年の間にWebアプリケーションの開発に乗り出す開発者が増加し、様々な場所でWebアプリケーションが導入され始めた。Webアプリの可能性は確実に認められている。だが、Webアプリは克服すべきすべての課題をクリアしたわけではない。むしろ実際の利用が進むに従って、デスクトップソフトとの機能差、ビジネスモデル、多様なフォームファクタのサポート、開発者支援など、新たな課題が浮き彫りになり始めた。「Webは成長している」とGundotra氏は述べる。その過程の痛みを克服し、引き続きWebコミュニティ全体でオープンなWebを前進させられるように、今年の基調講演ではGoogleからの提案といくつかのソリューションの提示が行われた。

昨年のGoogle I/OでHTML5が検索されるようになり、今年に入ってAppleとAdobeのFlash論争、MicrosoftのHTML5サポートなどで検索数が一気に増加

Webアプリは"試される"から"使われる"段階に。同時に、配信、発見、生産性、デバイスサポート、マネタイゼーション、エンタープライズ対応など新たな課題に直面

「われわれには自由に利用できるオープンなWebビデオ形式が必要」

ソリューションの1つとして、Googleは昨年8月に買収したOn2 Technologieの動画コーデックVP8をロイヤルティフリーのBSDライセンスで公開した。

Webブラウザのマルチメディアサポートにおいて、動画コーデックは大きな論争を巻き起こしている。現在Web用の動画形式ではH.264がよく使われているが、同形式は完全なロイヤルティフリーではなくMPEG LAがライセンスを管理している。そのためMozillaやOperaはロイヤルティフリーのOgg Theoraを支持していたが、品質が明らかにH.264よりも劣る。videoタグの策定はスムーズに進み、数多くのブラウザがvideoタグをサポートしているにも関わらず、主要なブラウザの間で共通して使えるWeb用の動画コーデックがないのが現状だ。オープンソース化されたVP8は、ロイヤルティフリーとWeb向けの品質・性能の両方の条件を満たす存在になる。

On2の動画コーデックは20億以上のデバイスにインストールされており、Skype、AIM、Javaなどに採用されている

VP8のオープンソース化にともないGoogleはMozilla、Operaとともに「WebM」というオープンなWebメディア形式の確立を目指す新プロジェクトを立ち上げた。ビデオコーデックにVP8、オーディオコーデックにOgg Vobris、コンテナにMatroskaを採用した完全フリーなメディア形式「WebM」を開発・提供する。

早速OperaとMozillaは、WebMをサポートするWebブラウザの初期プレビュー版の提供を開始した。GoogleもChromeのDevチャンネル版でまもなく対応するという。Opera CTOのHakon Wium Lie氏は「Tim (Berners-Lee氏)はHTMLの特許を一切取得しなかった。私もCSSの特許を取らなかった。Brendan (Eich氏)もJavaScriptのパテントを押さえなかった。これらの歴史が示すように、われわれには自由に利用できるオープンなWebビデオ形式が必要だ」と語った。

Opera CTOのHakon Wium Lie氏が、WebM、Webフォント、SVGグラフィックス、CSS、JavaScriptで構成されたリッチで動的なWebサイトのデモを披露。楽譜の部分はCanvas。画像は一切使われていないという

WebMプロジェクトにはGoogle、Mozilla、Operaのほか、Adobe、Skype、ARM、Qualcomm、NVIDIAなど数多くの主要企業がサポートを表明

さらにAdobe SystemsのCTOのKivin Lynch氏が登場し、Flash PlayerでVP8をサポートする考えを明らかにした

Web 2.0 Expo、Google I/Oと大きな開発者イベントへのゲスト出演が続くAdobe CTOのKevin Lynch氏。FlashとともにHTML5を積極的にサポートすることで、Webの安定した前進に寄与していると強調

Lynch氏はまた、Dreamweaver CS5に提供し始めたマルチスクリーンプレビューや、CSSとJavaScriptでシンプルにアニメーションを実現するプロトタイプツールなどを見せ、AdobeがHTML5も積極的にサポートしていることをアピールした。

マルチスクリーンプレビューで、異なるサイズ・解像度の画面でのWebページの表示を比較

各デバイス向けにCSSでデザインをカスタマイズ。メディアクエリ・ベースのCSSスタイルシートをまとめて調節

各デバイス向けにデザインがカスタマイズされた後のWebサイト表示

プロトライプツールで、CSSトランスフォーム、CSSアニメーションを使ったリッチメディア広告を作成