Lynch氏はAppleお墨付きのアプリやコンテンツにユーザーや開発者をしばり付ける今日のiPhone OSプラットフォームを「塀に囲まれた庭(walled garden)」と表現、さらにAppleが仕掛ける競争を「19世紀の鉄道産業のようだ」と喩えた。19世紀の米国の鉄道は、鉄道会社同士の競争が過熱し、ライバルを牽制するために各社がそれぞれに線路の規格を定めた。その結果、異なる鉄道会社の路線に列車が乗り入れできず、全米規模の鉄道ネットワークの実現が遅れ、米国の経済や輸送を必要とする産業の発展を遅らせる要因となった。OSに従ったネイティブコードを強いるのは鉄道会社の線路の独自規格に等しいと断言。これまでのWebの成功を支えてきた自由でオープンな環境を狭めるものだと指摘した。

クロスプラットフォームアプリはサブスタンダードアプリに過ぎず、ネイティブアプリほどデバイスの機能を引き出せないという指摘に対しては「コンピューティングの歴史では新たな抽象化レベルの創造を通じて人々の生産性が引き上げられてきた」と認めながらも、「それは表現性やフィデリティの損失を意味するものではない」と述べた。アッセンブリ言語からコンパイラ、フレームワーク、グラフィカルUIと移り、そして今日Webレイヤがもたらされようとしている。こうした過程で開発者の能力は損なわれることはなく、むしろこれまでの積み重ねを模範とすることで可能性がより広がっていると述べた。それは今日のWebのリッチなアプリケーションやコンテンツが証明しているという。

Lynch氏のインタビューのいくつか前のセッションで、ParrotがラジコンヘリにAR技術を組み合わせた「Parrot AR.Drone」のデモを披露した。SDKが公開されており、拡張現実で室内に仮想のモンスターを出現させてシューティングしたり、空撮に使ったりと、AR.Droneは開発者のアイディア次第で遊び方や利用方法が広がる。ただしAR.Droneをコントロールできるのは現時点ではiPhone/ iPod touchのみ。もしWi-Fiを使ったあらゆるデバイスを利用できるとしたら、AR.Droneという魅力的なプラットフォームがより多くの開発者やユーザーにとって身近な存在になり、その可能性が大きく広がるのではないかと会場に語りかけると、客席から大きな拍手がわき起こった。

Lynch氏が絶賛した「Parrot AR.Drone」。すばらしいからこそ、iPhone/iPod touchだけではなく、Androidほかにもチャンスを……とコメント

iPhone OSデバイスのみが今日の革新的な存在ではなく、Webの進化、モバイルデバイス向け技術の進歩、スマートフォンやタブレットのような新しいタイプのデバイスの登場など、モバイルインターネットを舞台に多種多様な革新の大きなうねりが起きようとしているとLynch氏。「われわれはパーソナルコンピュータ革命が起こったときと同じような時期にある。これはゲームの終わりではなく、ゲームの始まりに過ぎない。そして今われわれは"1984"のような状況に直面している」と述べた。1984とは、1984年のスーパーボウル中継でAppleが公開したテレビCMのことだ。巨大企業(ビッグブル=IBM)によるコンピュータ産業支配が、自由なパソコンの登場によって打ち破られるイメージが描かれた。1984で自由をもたらす存在はAppleのMacintoshだったが、そのAppleが今日では支配者としてモバイル革命の前に立ちふさがっていると言うのだ。