日本とは違う欧米の需要とインド式開発

NTTコムウェア エンタープライズ・ソリューション事業本部 HCMソリューション部 スペシャリスト 野田知哉氏

一方、研修生側は現地でさまざまな驚きを感じながらも、安心感を持って過ごしていたようだ。というのも、平日日中は下平氏がメールで対応し、それ以外は専用の携帯電話を肌身離さず持った松崎氏が対応するという体制が整えられていたからだ。

「遠隔地に行って定期的なメール連絡ができなかった日は、即座に電話がかかってきました。また、トラブルがあって電話をすると、すぐに対応してくれました。"心配してくれているな"と感じましたね」と語るのは、2期生として参加したエンタープライズ・ソリューション事業本部 HCMソリューション部 スペシャリストの野田知哉氏だ。

野田氏の研修応募の動機は「インドの開発現場の実情を知りたい」ということだった。「生の現場が見たかったので応募しました。メリットはもちろんデメリットも知りたいという気持ちがありましたね」と語る同氏は、開発現場での熱心さとペーパーレスが徹底されていることに驚いたという。

「日本のエンジニアの机には資料が積み上がっていますが、インドでは資料が電子化されています。また彼らはとても熱心です。研修では活発にディスカッションを行い、現場でも勉強熱心でした。こんな彼らに触れ、危機感を持つとともにモチベーションが上がりました」(野田氏)

NTTコムウェア ネットワーク・ソリューション事業本部 IPネットワークソリューション部の芝田豊綱氏

また、1期生として参加したネットワーク・ソリューション事業本部 IPネットワークソリューション部の芝田豊綱氏は海外市場の動向を見てみたいという希望を持って参加した。驚いたのは、開発手法の大きな違いだという。

「日本ではドキュメントを整備してから開発に着手しますが、インドではドキュメントをあまり作らずに開発を始めていました。欧米では開発ベンダーをよく変えるので、日本のように将来を見通して詳細なドキュメントを作る必要がないのでしょう。速度の違いに驚きました」と語る芝田氏は、それが良いばかりではないと感じたそうだ。

「ドキュメントを作らないと速度は上がりますが、それが良いか悪いかは別の問題です。ただ、こういうやり方が存在すること、欧米ではそれが求められていることがわかったので、今後この手法をとる競合とも戦えると思っています」(芝田氏)

高いモチベーションと視点の変化が大きな成果

「技術の習得ではなく、メンタルの強化が目的」と松崎氏が言う通り、研修に参加した2人は「気持ち」の部分での成果が大きかったと話す。

「テキストを読んでいるだけではなく実践的なことを教えてほしいといったように、講師にこちらの要求を伝えて学べる環境を作ることもしました。自分の要求をきちんと伝えることはとても勉強になりました」と芝田氏は語る。

インドの開発現場にはさまざまな考え方を持った人が集まっており、そうした環境で円滑な開発が実現されている背景に、明確な指示や厳密なタスクの管理が行われていたという。

「彼らが当たり前にやっているタスク管理の重要性を感じました。また、今までは流れの一部としかとらえていなかった品質管理の仕組みなどもその存在意義をあらためて理解しました」と芝田氏。

帰国して間もない野田氏は高いモチベーションが得られたことを強調する。「インドのエンジニアは個々の意識が高く、勉強熱心であることに危機感を感じました。"自分はこのままでいいのか、負けていられない"と思うことでモチベーションを高めています。今はこの気持ちを持続すること、周囲に広げることが課題です。たまにインドのエンジニアとメールのやりとりをして気持ちを保っています」(野田氏)

インドのエンジニアの意識の高さは特に日本のエンジニアにとって衝撃的だったようだ。「現地のエンジニアの新人研修に日本語学習があるのですが、習熟度が足りないと簡単に契約が解除されてしまいます。"先週までいた人たちが今週はいない"という厳しさを感じました。また、"数年後に自分は何をする"という目標を明確に持っていることも衝撃的でしたね」と芝田氏は語る。

異国の厳しい環境で成果を得てきた研修生に対し、送り出した事務局側も手応えを感じている。「日本のコミュニケーションにおいてありがちな"伝わったはず"、"言ったはず"ではコトが済まない環境で鍛えられ、コミュニケーション能力の向上を感じます」と語るのは松崎氏だ。また、下平氏も「研修参加者の周囲からは、帰国してから変わったという声をよく聞きます」と満足そうに語る。

NTTコムウェアは2010年度以降も同様な研修を実施する予定があり、社内からはすでに問い合わせも相次いでいるという。明確に存在する自社の目的を果たすための"手作り研修"は確実な成果とともに、社内に浸透しつつあるようだ。