手描きアニメ制作の未来の姿

 

――この『ジャングル大帝』をDVDで初めて観る方々には、どう楽しんで欲しいですか。

谷口「日本のアニメには、いくつかクセというか流派があると思います。そういう大きな柱のひとつに、手塚的な作画や画面の作り方があります。『鉄腕アトム』以来の手塚アニメの在りかたや、受け継がれてきた技術などが、この作品にも集約されていると思います。そういうところも楽しんで欲しいですね。テレビ番組で、ここまで数多くの動物が出て動くという作品は過去10年ないですし、今後も滅多にないと思いますから」

――動物の手描きアニメは、現在は稀少なものなのでしょうか。

谷口「手描きで動物アニメを描くのは、本当に手間暇かかるんですよ。骨格の動きも本当に複雑ですし、人とかガンダムのようなロボットを描くほうが、遥かに簡単なんです。現在は、動物が描けるアニメーターが本当に少ない。そういう意味でも、この作品を監督出来たのは、嬉しかったですね。動物をどれだけ絵コンテで出しても怒られない(笑)。今後、私の手描きのアニメ作品で、これほど動物が出る作品はないでしょう。実は本編だけでなく、エンディングのテロップも見所なんです。日本の手描きアニメの歴史が、あのテロップにそのままありますから。そういう意味でも、『ジャングル大帝』は日本のアニメがどれだけ成熟しているかを実感できる数少ない作品だと思います」

――日本の手描きアニメの歴史というお話がありましたが、日本の手描きアニメはこれからどうなっていくのでしょうか? 最近では、Flashのようなツールを駆使した少人数制作による低予算作品や、フルCGの作品が手描き作品以上にアニメとして注目を集めています。

谷口「少人数制作のアニメというのは、実は昔からあるもので、その流れは否定しません。Flashに関しても、クレイなどと同じで手法のひとつですから、表現手段が増えていくのは良いことだと思います。ただ、手描きの将来は難しいですね。今までアニメなるものの中心にあった手描きの手法ですが、これからは低級品と高級品に分かれていかざるをえないかも知れません。今はロボットですら、手描きでは描かないでCGが多い。車さえも描かない。アニメーターが描くのを嫌がったり、制作が仕事として発注しないからなんですが。ただ、これは致命的でしょう。継承がなくなります。いくら観客の方が手描きアニメを欲しても、描く人間がいなかったら無理です。持続するには、お金が必要です。だから、手描きアニメは高級品になっていくと思います。正直、世界市場で考えるとCGアニメのほうが売れるし、お金になる。もちろん、安い予算のテレビアニメは存続すると思います。ただ、DVDなどのソフト販売で収益を回収するというスキームは、ファイル交換や無料配信で壊れつつあるので、商売としてのアニメは、もとの姿に戻って行くんでしょうね。十五年以上前までのスタイルです。玩具販売を目的としていたり、人気原作に頼る方法ですね。そうなると、『ガンダム』や『ドラえもん』のような皆が知っている作品だけになってしまうかもしれません」

――高級品として残るとは、具体的にどういうイメージなのでしょうか?

谷口「カリカチュアしていうと、伝統芸というか、家元制度のようになっていくかもしれません。二代目●●とかが生き残る世界です。手描きアニメは、能や歌舞伎のような存在になっていくかもしれませんね。生き残るために政治に接近したら、そうなるでしょう」

――暗い可能性も予想してくださいましたが、谷口監督自身は、そんな状況の中でどう創り続けていきたいのでしょうか。

谷口「毎回、違うジャンル、違うお客さんのために作品を作っていきたいですね。そういう場が、これからもあればいいんですが(笑)。自分には才能がないと思うので、ひとつの場所に留まりたくないんです。才能ないので、動き続けたいんです。いつもいっぱいいっぱい(笑)」

撮影:石井健