Spring Sourceの時代

「Spring Framework」がJavaエンタープライズ・システムでの地位を確かなものにするとともに、Rod Johnson氏率いる、SpringのサービスとサポートをおこなうInterface21にも大きな変化が訪れた。2007年に社名をInterface21からSpring Sourceに変更したのが、その始まりである。

2008年1月、Spring Sourceは、Tomcat、Geronimo、HTTP ServerなどのApache Software Foundation( ASF )のサービスやサポートを提供しているCovalent Technologiesの買収を発表する。そして、同年の12月にはTomcatをベースとして運用管理面などのエンタープライズ向け機能を付加したアプリケーションサーバ「SpringSource tc Server」を発表する。この発表は、Springがよりエンタープライズ色を強め、エンタープライズをAll-In-Oneで実現する方向へと向かってゆくことを利用者に意識づけたと云って良いだろう。

同年11月には、オープンソースのスクリプト言語「Groovy」とSpring Framework(とHibernate)とGroovyを組み合わせたフレームワーク「Grail」を開発するG2Oneを買収したことも発表する。

続けて12月には、「Adobe Flash」対応を目指してAdobe Systemsと協業することを発表。この協業により、SpringSourceはAdobeのオープンソース技術「BlazeDS」を取り込んだ「Spring BlazeDS Integration」の開発を進めることになる。

明けて2009年5月には、ネットワークやサーバー機器、OSやミドルウェアなどのソフトウェアをモニターするHyperic HQを開発するHypericを買収したことを発表する。この買収によってSpringは、Spring Frameworkを中心とした開発(Build)、 Apacheを核としたServerによる実行(Run)、Hyperic HQによる実行環境のモニタリングによる管理(Manage)までの、エンタープライズ・システムのAll-In-Oneを揃えたのである(図3)。

図3: Build-Run-Mannage

そして2009年8月、我々を驚かせたVMwareによるSpringSourceの買収発表である(この買収によりSpring関係のコミュニティに何らかの影響があるのではないか心配されたが、今のところ、コミュニティ活動に制限等をかけるものではないことは明らかにされている)。

このVMWareによるSpringSourceの買収は、VMWareの製品である「VMware vSphere」や「VMware vCenter」をベースとしたIaaS(Infrastructure as a Service)上にSpringを配置することで、Javaアプリケーションをクラウドでより容易に利用できるようにしようというのが狙いだと云われているが(図4)、それ以上に今後のエンタープライズ・システムやクラウドに対して、どのような影響を与えるか予断できない。

図4: Spring+VMWare

VMWareによる買収の熱もさめない同年8月、Spring SourceはCloud Foundryの買収を発表し、「Spring Source Cloud Foundry」を発表した。

これにより、Springはクラウド(Amazon EC2)上で、Spring Frameworkを中心とした開発したアプリケーションを、 Apacheを核としたServerにより実行、Hypericによる管理ができるようになったのである。

(2010.5.12追記)

2010年4月27日(米国時間)、再び我々を驚かせるニュースが、Salesforce.comとVMwareによって発表された。両社は、「VMforce」と呼ばれる、Springが組込まれたJava開発者向けクラウド(PaaS)の提供を始めるというのである。現段階では詳細は明らかではないが、今後のクラウドの勢力を左右するプロダクトであることには間違いないだろう。

*  *  *

もはやSpringは、単にSpring Frameworkを意味するものではない程、大きくなっている。そのため、Spring FrameworkでDIやAOPが使えるのは知っているが、それ以外に、どんなプロダクトがあり、そのプロダクトが何をしてくれるのか、よく分からないこというエンジニアも増えてきている。

そこで、今後5月までの予定で、JSUG(日本Springユーザ会)やJGGUG(日本Groovy/Grailsユーザ会)の有志によって順次、次のプロダクト(*が先頭にあるものは今後公開予定のもの、リンクがあるものは既に公開済み)の情報をお届けする予定だ。皆さんにお役立ていただけると幸いである。

1. Springエンタープライズ・Javaアプリケーション
 *Spring DM
 *Spring Security
 ・Spring Framework…etc

2. Spring エンタープライズ・リッチWebアプリケーション
 *Spring MVC
 *Spring BlazeDS Integration
 ・Spring Faces, Spring JavaScript…etc

3. Spring エンタープライズ・インテグレーション・アプリケーション
 *Spring Integration
 *Spring Batch

4. Groovy/Grails
 *Grails

5. サーバー
 *tc Server/dm Server
 ・tomcat
 ・ERS

6. 開発ツール
 *STS
 *Roo

7. Cloud
 *Cloud Foundry

8. .NET
 ・Spring .NET

9. 管理ツール
 ・Hyperic HQ

執筆者紹介

長谷川 裕一(HASEGAWA Yuichi)
- Starlight&Storm代表社員、フルネス取締役


オブジェクト指向に関する、技術やプロセスのコンサルティングに従事。主な共著書に「プログラムの育てかた(ソフトバンク)」、「Spring入門(技術評論社)」、「Spring2.0入門(技術評論社)」などがある。