3月2日 - 5日(現地時間)、米ユタ州ソルトレイクシティで開催された「Omniture Summit 10」は、「Lead the next digital decade」をテーマに、4つのゼネラルセッション(基調講演)と50のブレイクアウトセッションが行われた。すべてを紹介することは難しいが、ここではサミット全体の様子をざっくりとお伝えしよう。AdobeとOmnitureが指し示す、"今後10年のデジタル(業界)をリードする"ものとは何かが見えてくるはずだ。

同サミットは、Omnitureの顧客やパートナー、コンサルタントや経営陣に向けて、最新のオンラインマーケティングのトレンドや、すぐに活用できる実践的なノウハウや事例を伝えようという趣旨の下、年に1回開催されている。オンラインマーケティングの有識者や業界アナリストなどが登壇する基調講演は、そのトレンドを押さえんとする聴衆が毎回2,000人集まるという盛況ぶりだ。

基調講演はすべてこんな感じですぐに満員に!

ゲストキーノートでは、マーケティング関連のベストセラー著者のセス・ゴーディン(Seth Godin)氏と、Wired Magazine創業者のひとりであるジョン・バッテル(John Battelle)氏のスピーチが行われた。

セス・ゴーディン氏

ジョン・バッテル氏

ゴーディン氏は、『バイラルマーケティング』『パーミションマーケティング』など、その時代のベストセラーとなったマーケティングの著作が多数あり、一方のバッテル氏はGoogleを取材した初のビジネスノンフィクション『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』が刊行されている。日本の業界関係者にとってもこの二人は馴染みのある名前だろう。

ここでは、その両氏のキーノートの内容を紹介しよう。

マーケッターはリアルに、そして個性的になれ! - ゴーディン氏

ゴーディン氏は「平均的な商品を、平均的な人々に売る時代は終わった。これまでのマーケティングと言えば、広告にコストをかけて、人々が(宣伝に)うんざりして商品を買うまで、"あれだ、これだ!"と言い続ける手法だった。だが、産業時代はとっくに終わり、"革命期"の最前線にいる今、その手法はもう通用しなくなった。数十にも増えたテレビチャンネルを追うことは不可能であるし、これ以上の数のモノを作り出すこともできない」と語る。"産業時代の終わり"という表現は、これはマーケティング担当者にとっては、モノをやみくもに生産し、ただ売ることに専念する時代から人とつながる時代に移ったという意味に受け取れた。

「これからのマーケティング担当者の仕事は、広告コピーに無駄な費用をかけることではなく、"人々に語られる価値のある"製品やアイデアを作りだすことである」とし、そのキーワードを「Individual(個性的)」だと述べた。

「人々とつながり、人々をリードし、そして何かこれまでとは違ったことを実行してみる。退屈な人ではいけない。ルールを破ってください。"Follow me"と言ってください」と語る同氏の意図するところは、「人は人についてくるが、企業は人を売り買いをすることができない。マーケティングのリーダーとは、その人自身が信頼され、その人自身の言葉が信用されなければいけない」ということを示している。「あなたに信頼を寄せるお客様が、その仲間に(商品やサービス)の良さを話して回ってくれることこそが、新しいマーケティングの目指すところだと言えるでしょう」と語り、「これまで先送りしてきた問題を解決するには、"アーティスト"のような仕事をすること。価値を発明し、創造することだ」とも述べていた。

ゴーディン氏の"見せる"プレゼンテーションから - 「(これからのマーケティング担当者は)リアルになれ! 人々に謝れる人になれ! 退屈な人になるな! 天才でなくても、個性的になれ!」

"ソーシャルとモバイル"という世界の主役を最大限に活用する - バッテル氏

ジョン・バッテル氏のキーノートは、「インターネットは成長を続けてきた。さて、果たして、いったい何が成長してきたのかを、もう一度考えてみたい」という問いかけから始まった。

YouTube、Wikipedia、Blogger、Facebook、Flickrといったデジタルサービスやメディアの急成長ぶりについて、その数字の意味をNielsenの調査から解説した。さらに各リサーチ結果やメディアのコメントから「毎日、150万という数のブログや、ニュースや写真などといったさまざまなコンテンツが、Facebookでシェアされている」「2010年、ジェネレーションY(1975 - 1989年に生まれた世代)の若者たちの96%が、ソーシャルメディアを利用する」といった引用を紹介した。

現代のネットの成長は"ポータルサイト"ではなく、"ソーシャルメディア"の発達によるもの

ニールセンの調査結果。YouTubeやWikipedia、Facebookの伸びの大きさが目を引く

米の地域店舗の口コミサイト「Yelp」のAR機能を搭載したモバイル用ソーシャルアプリ。セカイカメラにも似ている

ゴーディン氏に劣らず、豊かな表現能力で聴衆を引き込んでいたバッテル氏

「今やWebそのものがソーシャルであり、その中で見えてきたのが"対話型マーケティング"である。今後、対話型マーケティングなしではブランドを広めていくことはできないが、その対話の中では悪い部分まで語られてしまう傾向がある。この傾向は、もちろん商品の販売にも大きな影響を与える。そこで必要となるのは、顧客やパートナー、そして競合相手も巻き込んだメディア創造と、その中でブランド力を高めて行くことだ」と語った。

同氏はこれを"対話型パブリッシャーのスキル"と呼ぶ。そして、「今後は、ソーシャルとモバイルのデジタルメディアが世界の主役となる。すべてのマーケティング担当者がパブリッシャーであり、消費者はまたその両者でもある。成功するためには、消費者との対話するためのデジタルメディアを最大限に活用すべきだ」と語った。

また、ソーシャルメディアを扱う上での「プライバシー」や「オープンかクローズドか」といった問題にも触れたほか、今後、さらに成長するであろうモバイルについては、その戦略を一方向からではなく「モバイル=ローカル=リアルタイム=ソーシャル」という複数のレイヤから複合的に分析し考えることが重要だとも述べていた。なお、スピーチでも事例として挙げていたが、「Toyota」がイメージ立て直し戦略として、「TweetMeme 注」上に立ち上げたブランドチャネルは、バッテル氏がCEOを務める「Federated Media Publishing」が支援を行っている。

注) Twitterで人気のあるリンク、ニュース、画像、ビデオを表示することができるサービス