--ネットブックでの取り組みを教えてください。

Carr氏: Intel/Linux Foundationの「Moblin」プロジェクトに参加し、開発者向けに「Ubuntu Moblin Remix Developer Edition」を作成しました。Moblinインターフェイスを採用した初のネットブックで、2009年秋の「Intel Developer Forum(IDF)」でDellが搭載機を披露しました。

--ネットブックでは当初Linuxが先行しましたが、"結局ユーザーは使い慣れたMicrosoft環境を求めている"というメーカーの声もあるようです。

Carr氏: 同じような話をMicrosoftのPR資料で読みました(笑)。

Ubuntuでの取り組みを話すと、われわれはPCメーカーと協業してビデオカードやCPUとの動作検証を確実にしています。その結果、Windowsマシンと比較して返却率が高いという話も聞いていません。

実際のところは、消費者にはWindowsしか選択肢がないというのが現状ではないのでしょうか? Linuxはまだ代替として扱われていません。ですが、平均的なユーザーはLinuxエクスペリエンスは悪くないと思っており、Linuxは代替になっています。ただ、市場に選択肢が提供されていないのです。

Windows 7とUbuntu 9.10を例にとっても、さまざまなレビューがありますが、ほぼ同じというのが大筋の評価です。長所はそれぞれあるが、概して同じ。違いは値札です。

消費者に選択肢を提供する - これはわれわれが2010年にフォーカスすることの1つです。

--アプリケーションはどうでしょうか?

Carr氏: 問題といわれてきました。ですが、「Office」なら「OpenOffice.org」が同レベルの機能を実現していますし、「Google Docs」などWeb経由のアプリケーションも登場しています。他のアプリケーションやゲームもそれほど見劣りしないレベルに改善されています。

それでも"Windows牢屋"に囲い込むニッチだが重要なアプリケーションもあります。ある開発者が「Quickly」というツールセットを開発していますが、これはUbuntuアプリケーションのパッケージを容易にするものです。事態は少しずつ変わってきています。

--Googleが「Chrome OS」を発表しました。OSの重要性が低くなっているという意見もあります。

Carr氏: Chromeのニュースはすばらしいことで、好意的に見ています。Markが5年前にLinuxデスクトップを開発すると発表したとき、市場の反応は「OSはもう勝負がついている」という冷ややかなものでした。Chromeプロジェクトの発表は、われわれの取り組みが正しかったことを裏付けるものといえます。

Chrome OSは、Microsoftには脅威かもしれませんが、オープンソースは違います。われわれは、「Ubuntu Core」という土台の上に「Ubuntu Desktop」「Remix」「Moblin」などが載るという開発コンセプトを持っています。Chromeも上位レイヤになる可能性があります。Chromeはオープンソースなので、公開されたコードを利用できます。オープンソースの世界は"ゼロサムゲーム"ではなく、両方が勝つことが可能なのです。

実際、CanonicalとGoogleは非常に良好な関係で、Google社員の多くがUbuntuユーザーですし、Ubuntu Serverも導入されています。

--9.10では、デスクトップでの「Ubuntu One」統合、サーバでの仮想化対応などクラウドも特徴となります。

Carr氏: Ubuntu Oneは、50GBを月額10ドルで提供するという有償のストレージサービスで、これまではオプション提供だったのが、9.10ではビルトインとなりました。まだベータ版で、まずはユーザーに知ってもらいたいと思っています。

クラウドサービスは、技術的には使える段階にありますが、ユーザー側のマインドセットが必要です。将来的には、ファイルをクラウドに保存することが、ごく自然なことになると思います。

今後もUbuntu Oneの機能を増やし、使いやすくしていきます。たとえばアドレス帳をPC、携帯電話などで共有するなど、PCでやっていることをUbuntu Oneに移していきます。時代は、"パーソナルコンピュータ"から"パーソナルコンピューティング"に移ります。Ubuntuはその主導役を担いたいと思っています。

サーバでは、オープンソースの仮想化技術「Eucalyptus」を採用した「Ubuntu Enterprise Cloud(UEC)」を搭載しました。ファイアウォール内にクラウドを構築できる機能で、大企業などクラウドの信頼性を懸念しているところも、社内にクラウドを構築してクラウドのメリットをリスクなしに享受できます。

UECでは、インストール、設定、構築、モニタリング、管理などのプロセスを用意にしました。同じイメージをプライベートクラウドとパブリッククラウド(「Amazon EC2」)の両方にパブリッシュできます。これにより、追加のキャパシティが必要なときはパブリッククラウドを利用するなどの柔軟な運用が可能となります。

Microsoftをはじめ、(パブリックとプライベートの)両方に対応しているところは少なく、オープンソースでは初です。これは大きな差別化になると思います。

パブリッククラウドでは現在、Amazon EC2がデファクトなのでこれをサポートしました。将来的にオープンな標準が必要になるでしょう。標準により、「Azure」など、さまざまなパブリックサービスに切り替えが可能となります。

--最後にShuttleworth氏について聞かせてください。

Carr氏: Markは「慈悲深い独裁者」を名乗っていますが、彼が目指していることは社会的な富に貢献することです。そのためのツールを与えることです。

Ubuntu=(イコール)Markというイメージが強いのですが、本人はSteve Jobsのような存在になることを懸念しています。Ubuntuが完全にオープンであるように、Canonicalが財務的にうまくいかなくなってもユーザーに影響がないように、Ubuntu Foundationを立てUbuntuを保証しています。