オバマ大統領の新宇宙戦略、日本はどうする?
続いて登壇した的川氏は、秋葉氏の次の世代である。L-4Sロケットを飛ばしていた頃はまだ大学院生だったそうだが、Mロケットの時代にはさまざまなプロジェクトに関わってきた。その的川氏もすでに現役を退き、2年前にNPO法人「子ども・宇宙・未来の会(KU-MA)」を設立。現在は宇宙教育に力を入れている。
的川氏からは、宇宙研時代のさまざまなエピソードが語られたが、ここでは省略したい。前述のJAXAのサイト(これは的川氏本人が執筆したものだ)に詳しいので、そちらを参照して頂きたい。
これまでの日本の宇宙科学の実績について、的川氏は「小さな国にしては健闘している」と評価する。学術分野では、「一番最初」の成果でなければ意味がない。潤沢な予算によってあれもこれも手を出せる米国の後で、まったく同じことをやっても評価はされないのだ。少ないリソースで対抗するために、米国がやらないことの中から、価値が高いものを狙ってきた。小惑星探査機「はやぶさ」はそれを象徴するプロジェクトだろう。
その米国も、オバマ大統領が宇宙戦略を大幅に転換、月・火星の有人探査を目指したブッシュ前大統領の「コンステレーション計画」を破棄する方針を打ち出した。これについて、的川氏は「予算が足りないからという解釈が多いが、私としては、長期を見て作成した重厚な計画、という印象を受ける」と解説。一時的には後れを取るように見えるかもしれないが、まずは基礎研究に注力し、その後の飛躍を狙う戦略を評価する。
翻って日本である。的川氏も、現状に対しては危機感を持つ。
的川氏は、月探査に関する懇談会において委員も務めているが、「政権が変わって、宇宙への声が聞こえてくるかと思ったが、何も聞こえてこない」と嘆く。宇宙開発担当の前原誠司大臣が国土交通相と兼務で、「とても手が回らない」という事情もあるだろうが、「宇宙というものが世の中の人にどう関わるのかという思いが、ほとんど政治家の中にはないのではないかと感じている」とすら述べる。
結局のところ、宇宙開発を成り立たせるのは、宇宙に取り組む人たちであり、宇宙を応援してくれる人たちである。そこを基礎にして行かないと、日本の宇宙開発は大きく開花しない。
そういうことを考え、的川氏はKU-MAを設立したのだという。「次の世代、次の次の世代を担う、冒険心と好奇心に満ちた子供たちを育てたい」と的川氏。「今までに我々が考えなかったような宇宙開発が、21世紀にはきっと必要になってくる。20世紀は東西対立という色彩が強かったが、今はまるで違うセンスの世代が育ってきている。私は子供たちを育てて、これから何をするのかについては、その子供達に託したい」と、未来にエールを送った。