――IMECがこれまで成功してきた理由は何ですか
Luc氏 まずベルギーに、それもフランダース地方に設立したことが大きいでしょう。この地域は(半導体産業にとって)中立です。最初の目的として、半導体産業界からのサポートを求めず中立であることを考えました。ベルギーに半導体産業がなかったことも幸いしました。このためIMECは、アメリカや台湾、韓国、そして日本とも協力して研究開発を進めることができました。それもトップクラスの企業との共同研究が出来ました。
日本の半導体コンソーシアムなら、このようにうまくいかなかったでしょう。半導体業界からのプレッシャー、政府からのプレッシャーがあって決して中立にはなりえません。
IMECは、はじめからグローバルなアプローチを取ることができました。日本の半導体メーカーに対してもIMECと一緒に共同研究するように促してきました。それは半導体メーカーが取り組んでいるテーマとIMECが取り組んでいるテーマを共に取り上げることができるからです。その半導体メーカーが最も関心のある研究を行うことができるという点が、日本の政府コンソーシアムとは違います。
たとえ日本の半導体メーカーがIMECの研究をただ単にコピーしようとしてもIMECの研究に加わった方がよいと思います。というのはコピーしても日本の産業界は競争が激しいから、単なるコピーでは競争力が付かないでしょう。日本のコンソーシアムは競争力を付けることに力を入れていますので、IMECのお金の掛け方とは違うと思います。
――日本でも最近はグローバルなパートナーシップの必要性が叫ばれています。もし日本のコンソーシアムが一緒に組もうという提案を行うなら、受け入れますか?
Luc氏 もちろん、一緒にやりたいと思います。IMECはいつでもオープンにコラボレーションしますので、私たちはぜひ、お互いの不得意な所を補うような形で一緒にパートナーシップを組みたいと思います。日本の半導体先端テクノロジーズ(Selete)とお互いにコンプリメンタリな形であればぜひ一緒に共同研究したいと思います。グローバルな前進を図ることができると思います。
――日本の半導体産業はかつて隆盛を誇っていましたが、ここ十数年、業績が落ちてきました。なぜだと思いますか?
Luc氏 難しい質問で、ちゃんとした答えになるかどうかわかりませんが、日本の半導体企業が決してダメとは申しません。成功したところもあります。エルピーダメモリやパナソニックはうまく行きました。
成功した両社に共通するのは、強いリーダーシップを持っているという点です。強いメンタリティで業績とマネジメントの整合性を取っていると思います。これが最も重要なことです。(エルピーダメモリの代表取締役社長兼CEOの)坂本(幸雄)さんは会社を強いリーダーシップで引っ張っていっています。パナソニックも同様で、(2010年2月1日付けで三洋電機の上席副社長執行役員・経営企画本部長に就任予定で松下電器産業時代は代表取締役副社長 技術担当、半導体社担当だった)古池進さんが強いリーダーシップで会社を牽引してきました。古池さんは強いリーダーシップと、非常にオープンな心を持ち、IMECとの共同研究も即断されました。共同研究はオープンマインドですので、政治的なプレッシャーがなく研究に邁進できます。
パナソニックとは共同研究を続けているだけではなく、さらに拡大しすべてのCMOSに渡る研究で第2フェーズに入りました。またアプリケーションに関わる研究も一緒に行うようになりました。バイオメディカルやワイヤレス通信関係などに拡大しています。パナソニックとは研究開発センターをIMEC内に作り積極的に研究開発を進めています。
――IMECは今や広い応用分野にまで研究対象を広げてきています。半導体LSIではプロセスから始まり、設計や応用にまで広げています。なぜ分野を広げているのですか?
Luc氏 IMECでは長年、いろいろなエマージングな分野の研究をやってきており、CMOSプロセスが特に有名になったのです。そのためナノテクノロジーやバイオメディアカルも前からやっており太陽電池は25年間研究を行ってきました。現在は300名、こうした新分野の研究者がいます。
今はこうした分野が注目を集めてきましたので、これら新しい研究成果を公開し、共同で研究できることをアピールしているのです。
また、何でもかんでもやっているというイメージよりは、ある分野にフォーカスしている方が、その分野をさらに発展させることができます。半導体CMOSプロセスにフォーカスすると、CMOSに関係した応用が出てきます。ですからそのような応用研究についても公開し始めたのです。
――それで、CMOSの設計分野の研究も手掛けているのですね
Luc氏 そうです。LSI設計分野には200名の研究者がいます。マルチコアプロセッサやそれを動かすソフトウェア、さらにはいろいろなワイヤレス技術、そのキモとなるRF技術にも力を入れています。
――誰がこういった研究テーマを決めるのですか
Luc氏 基本的にはマネジメントチームです。ただし、経営陣全部で決めるわけではありません。全員の同意を採っていると、それだけで簡潔に決められませんから、フレキシブルに決めます。これもIMECの強さの1つです。というのは産業界の動きが急速なのでフレキシブルに経営の課題も決めることが重要になります。しかもIMECの経営陣はさまざまな分野に精通しているので、フレキシブルに対応できます。
例えば、装置メーカーは顧客である半導体メーカーごとに対応します。彼らはたくさんの顧客を抱えていますから、すべての顧客を満足させるために装置を最適化し、要求の共通項目を最大限にしようと努めています。
IMECの経営も同じです。パートナーからの要求の中からできるだけ共通項目を最大限に求め、フォーカスすべき分野を即座に決めるのです。パートナー全員のコンセンサスを求めていたら時間はかかるし、決定は遅れます。原理的には1日で決めようとします。もし決めたテーマでパートナーがうまくいかなければロードマップにもう一度戻り、パートナーを失うこともあります。
私たちは、技術のバックグラウンドというよりも物理学のバックグラウンドを持っているため、さまざまな問題に精通しているのです。
売り上げ | 2億8000万ユーロ(約392億円) |
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社員数 | 約1,770名 |
研究開発プロジェクト数 | 385件 |
積極的なコラボレーション数 | 100カ所以上 |
発表論分数 | 1万9,000件以上 |
独立創業したベンチャー数 | 29社 |
コラボレーションしている国 | 60カ国 |
生み出した雇用 | 約4,000名 |
IMECの主な指標 |