オンラインでの創作活動による収入が全体の8割を占める

――サイモンさんは2004年からiStockphotoを利用されているとの事ですが、まだ、出版や広告の世界では、クライアントから依頼されて作品を創り収入を得るというスタイルがあくまでも主流です。サイモンさん個人では、iStockphotoでの販売で得た収入及び、iStockphotoをきっかけにオンラインで依頼された仕事と、従来のスタイルで依頼された仕事で得る収入の比率はどのようになっているのでしょうか?

サイモン「不況になってからは、iStockphoto経由の販売や仕事依頼が増えました。すでに、全体の8割くらいが、iStockphoto経由になっています。作品の買い手や依頼先としては、米国や東京が多いですね。私は福岡在住なのですが、福岡からの仕事の依頼はゼロです(笑)」

――日本では、iStockphotoのようなオンラインで自作を販売するというシステム自体、クリエイターに広く普及していません。現状、生活に不安を感じていたり、困窮しているクリエイターも多く存在しています。iStockphotoのようなシステムを利用する事で、ご自身の仕事に対する意識の変化などはありましたか?

サイモン「オンラインでの仕事に関しては、不況にも強いという実感があります。また、意識としては、これまでの通常のクライアント向けの仕事は、クライアントのニーズに合わせてクリエイトしていくというのが基本ですが、オンラインでは、自分の好きな作品を提示して売るわけです。全てではないですが、ある程度はクリエイターとして好きな事はできます。もちろん、それだけでは、売れないのですが、意識の上である程度のバランスは取れます。自分の気持ちの中で、好きな物が売れて収入となるというのは、やはり嬉しいことです。私の場合、1日の中で2~3時間はオンラインに出品するための作品制作をしています。それらの作品は、ある程度売り上げの予想ができます。それにより、多少の収入は確定しているので、気持ち的に安心感もあります」

――サイモンさんは、他のクリエイターの出品作品を見るのですか?

サイモン「見ますね。気になる作品にはコメントしたり、クリエイターとコンタクトをとることもあります。その流れでiStockphotoの創設者と知り合い、現在のiStockphotoのロゴマークを作ることになったんです」

様々な作品を提示し、ビジネスを安定させる

――iStockphotoのようなオンライン上の出品では、サイモンさんのようなクリエイターも、アマチュアも、ある意味では誰もが平等です。そのように、他のクリエイターと並び作品を出品するというシステムに危機感や違和感を感じる事はないのですか?

サイモン「キャリアのある友人から、『自分の作品の価値を下げるな!』という批判をいただくこともありますが、そうではないと私は考えています。もう、クリエイティブ業界自体の構造が変化しているのですから、それに対応しなければならないと思います。逆にオンラインというリソースがあるのに、使わないというほうがおかしい。自分の作風ひとつにしても、オンラインで色々なものをアウトプットして試してみればいい。作品の売れる売れないには、常に波があります。色々な作品をオンラインで提示することで、逆に自分のビジネスが安定するんです」

――サイモンさんは、大企業の大きなプロジェクトから、タウン誌のイラストまで手掛けています(※ロイヤリティフリーの作品の場合、購入者により様々な用途で使用される)。作品のフィーチャーのされ方も千差万別です。そういった仕事のスタイルは、あらかじめ使用目的や規模の確定している仕事を手掛けるのと比較して、意識の上で違いなどはあるのでしょうか?

サイモン「それほど意識してはいませんね。あくまでも作品テイストとしては、iStockphotoで作品を見た多くの方から、コメントを頂ける様な作品を目指しています」

――近年、クリエイターのワークフローは大きく変化しました。それは、デジタル化やツールの進歩による実際のクリエイティブ作業の内容だけでなく、サイモンさんのように、オンラインを利用した仕事の請け方、売り方に関しても言えると思います。サイモンさんはその変化に対応し、最大限に活用しているクリエイターといえると思いますが、そうでないクリエイターも存在しています。サイモンさんの目から見て、これからクリエイティブの世界や、クリエイターたちはどうなっていくと思いますか?

サイモン「オンラインで全ての人が関わる、UGC(ユーザー ジェネレイティッド コンテンツ ※ユーザー生成コンテンツ)というのが主流になってくるのではないでしょうか? これからのクリエイターが、マーケットや消費者に訴求するなら、そこに注目する必要があると思います。クリエイティブもそこから進歩するはずです。私個人としては、iphoneアプリのアイコンなどに私のイラストを使いたいという依頼が最近は増えている。そういうデジタルコンテンツ関係の仕事が、クリエイターにとって増えていくと思います」

――サイモンにとってiStockphotoはどんな存在なんでしょうか?

サイモン「iStockphotoは自分のクリエイティブなアイデアを発信するのに最適なプラットフォームです。出品者もプロのクリエイターだけでない。銀行員かもしれないし、兵士かもしれない(笑)。色々な人から作品に対してコメントをいただけるのは、クリエイティブのモチベーションに繋がります。もちろん、有名クリエイターは自身の作品がコピーされる危険性や、作品の価値を下げてしまう危険性などを指摘するのですが、私の場合はそこまで意識していないので、とりあえず出してみたという感じです。これからのクリエイターみなさんに強く言いたいのは、色々な収入源を持つという事が大切だということです。オンラインで売るというよりも、オンラインでも売れるということが大切。あとは、自分の作風を広げていくという意味でもiStockphotoは効果的です」

サイモン氏が、マイコミジャーナルのイメージイラストをクリエイト!! 「知りたい! を刺激する」というコピーもイメージに盛り込まれた

iStockphotoとは?

画像、イラスト、ビデオ、オーディオ、そしてフラッシュファイルなどが、ロイヤリティフリーで提供されているサイト。マルチメディアに必要な全ての素材をワンストップで提供している唯一のサイトで、ビジネス、マーケティング、個人利用において、現在550万点以上のファイルから1秒毎に少なくても1個のコンテンツがダウンロードされているという。登録しているメンバーは世界で600万人以上。世界中の様々なジャンルのクリエイターが、このサイトを活用して活動している

撮影:糠野伸