さて話をちょっと戻すが、今回のメインはARCではなく、Sonic Focusである。Sonic Focusは1995年に音響関連技術の会社として設立された。2001年あたりからは、PC向けの音響効果関連テクノロジをOEM供給しており、手持ちのPCにSound Focusがロードされている、なんて人も少なくないだろう。同社は2008年にARC Internationalに買収されるが、引き続きさまざまなメーカーにOEM供給を続けていた。が、ARC InternationalがVirage Logicに買収されたことで、今はVirage Logicの製品という形に切り替わったことになる。

現在Sonic Focusでは6種類の技術を提供している(Photo22)。どれも見れば判るとおり音響技術に特化したものであるが、今回のテーマはこの11月30日に発表された「Adaptive Volume」である。Parnell氏によれば「例えば映画を見ているとき、それが音声レベルが低い場合はボリュームは大きめにする事が多い。ところがCMに切り替わった途端、CMはレベルが高いため、いきなり大音量の再生になってしまい、あわててリモコンで音量を落とし、CMが終わったら再び音量を戻すという操作を煩雑に行うことになる。Adaptive Volumeは音量を時間ドメインで検出して、音量レベルを一定に保つ技術で、これを使うことでユーザーがボリュームを煩雑に操作する必要はなくなる」との話。こうしたVirage LogicのSound Focusは当然ViXSのXCodeにも採用されている、という事であった。

Photo22:例えばサラウンドにしても、もちろんスピーカーの数を増やせばサラウンドは実現できるが、物理的にゴツくなるし配線も大変で、部品コストも増える。X-Matrixを使えば、より少ないスピーカーでこれを実現できるという話。他の機能も趣旨としては同じである

ということでレポートはここまでだが、もう少しだけ。実のところ、ViXS自身はそろそろ袋小路に入りつつある気がしなくも無い。というのは、2ストリームのトランスコーダという時点で、そろそろ機能的にはハイエンドである。もちろん欲をかけば4ストリームや6ストリームといったニーズはあるのだろうが、それはほんのごく一握りであって、端的に言えばXCode 4115を2つなり3つ搭載すれば済むレベルだろう。実際、国内でも主要なメーカーにはほとんど採用されており、この先シェアを伸ばして行こうとすると、むしろミドルレンジからローエンドを対象にした製品展開が必要になる。

ところが、こうしたミドルレンジやローエンドは、そもそもトランスコーダの必要がないとか、あっても機能は低くてよいといった状態である。安いPVR(Personal video recorder)とかデジタルTVのマーケットだと、例えばZoranのSoCは北米マーケットでかなり大きなシェアを握っている。ここと競争するには、ViXSの製品はトランスコード性能が過剰すぎ、逆にその他の機能が足りていない。あるいは、最近は次世代のIA(Internet Appliance)向けプロセッサがビデオデコード性能を急激に上げつつある。次世代IAの場合、Blu-rayの再生が出来ること、が1つのキーワードになっているようで、これをソフトウェアでやっているとIntelのCore 2クラスのCPUが必要になってしまう。これを避けるために、ARMのCortex-AグレードのCPU+H.264を含むVideo Encode/Decodeハードウェアを組み合わせるというのが昨今の流行になりつつある。これらと戦うにも、やはりXCodeでは機能的にミスマッチである。

そもそもXCode-4000シリーズで「アプリケーションプロセッサ」と呼んでいるのは、Photo21で中央にあるARC750コアである。このコアをアプリケーション向けに開放した、ということだそうで、1250DMIPSという数字からすると動作周波数は800MHz程度ではないかと想像される(ARC750の場合、標準構成で1.53DMIPS/MHzという数字が以前発表されている。ただこれは0.13μmプロセスの数字であり、構成を変えるともう少し数字は上がりそうだ)。つまり、これは汎用性が余り無いという意味でもある。先にちょっと書いたが、ARCは汎用性よりも性能とか効率を優先した設計だから、ViXS自身がここにさまざまなミドルウェアを書くことはできるだろうが、OEMがこれを自力で作るのは非常に難しいだろう。

こう考えると、ViXSの方向性としては

  • XCodeをIP売りする形で、さまざまなアプリケーションプロセッサベンダに採用してもらう
  • ARC以外の汎用プロセッサを組み込んで、もう少し汎用性のある構成にする

のどちらかの方向性しか無い様に思える。この辺りを発表会の後でDaub氏にぶつけてみると、(現状分析は)その通りという返事であった。このため、今はARCコアのみだが、次はMIPSコアとつなげるほか、その他のCPUとつなげるためのプロセッサバスを出す計画があるとの事だった。MIPS、というあたりがZoranとぶつかる気満々な感じではある。またソフトウェアについては、Androidへの移植を進めるとか。こうした作業はすべて2010年から始めるとの事だった。つまり単なるトランスコーダではなく、トランスコード能力を持ったメディアプロセッサに進化させる方向に舵を切りつつある、というのが今後のViXSの方向性の様だ。