手間の掛かる行程自体も表現

――中田監督とストップモーションアニメーションとの出会いを教えてください。

中田「最初は、美術大学でデザインを専攻していました。そこで自主映画を撮影していたのですが、俳優の演技やセットなど、自主映画の限界を感じていたんです。そんなときにストップモーションアニメーションと出会ったんです。ラウル・セルヴェなどヨーロッパのアートアニメと出会って、『こういうものがあるんだ』と知り、自分でもやりたくなったんです」

――Flashアニメのような手軽な方法と比較すると、間逆というか手間のかかるストップモーションアニメーションという手法を選択した理由は?

中田「いわゆるジャパニメーションと呼ばれるアニメでは、ストーリーや絵柄が違っても手法は同じです。ストップモーションアニメーションでは、『どんな素材を使うか』という部分からも違いが出て、その撮影方法にも決まりがなく、より作家性が出やすいと言えます。確かにFlashアニメなどと比べると、物凄く手間はかかりますが、その行程自体も表現なんです。手間を省力して、商業ベースの作品を作ることも大事ですが、そうじゃない人がいてもいい。木を削る、色を塗る、空間を撮るという行程が僕は好きなんです。だから、耐えれるし、面白みを感じる。コンピュータデータではなく、実物があるという事が大切で、それが僕をワクワクさせてくれます。キャラクター、背景、時間軸、物語、全てを自分で作るということに魅力を感じるんです」

――時代と照らし合わせて、手間も大切という部分が受け手に伝わらないケースもあると思います。

中田「確かに手間を観客に伝える必要はないです。短期間で制作した作品でも素晴らしいものは数多くあるし、10年かけても駄目なものは駄目。でも観客は画面から何かを感じてくれるはずで、僕はそれを信じてます。時代的にFlashアニメなどが、より広まれば、逆に自分のようなクリエイターはより作品が創りやすくなってくるとも思います」

膨大な時間と手間を掛けて緻密に作られた「画」からは、凄まじいほどの情熱が伝わってくる

――最近、PCをメインツールとした映像作品でも、逆にアナログ感を出すような表現がトライされています。

中田「それはやはりアナログ感に重要性があるという事ですね。ですが、どれだけコンピュータ技術が進歩してアナログ感をPC画面で表現出来るようになったとしても、木を削る感覚、絵の具を混ぜる感覚は得れません。私はそこが最終的な画面につながってるように思ってるんです」

――中田監督はこの作品を観客にどう楽しんで欲しいですか?

中田「アートアニメーションというと、とっきにくい印象があるかと思いますが、決してそういうものではなく、一般の人にも楽しめる作品だと思います。ひとりの観客としては、『これは商業作品、これはアート作品』という区別はないと思っています。絵本を見るような感覚で楽しんでもらいたいですね」

――撮影に使用した造形物の展示なども、作品をさらに楽しむために有効ですね。

中田「造形物の展示も行いたいですね。撮影のミニチュアを見たときに、『おぉー』と、映像とはまた別の視点から新鮮に立体を観てもらうことも大切に考えてます」

限界より一歩先の事をやる

――今回の作品は商業ベースというか、劇場公開という形をとるわけですが、中田監督は商業ベース作品と、アートと呼ばれる存在とのバランスをどのようにお考えですか?

中田「それは、どのアーティストも色々考えていることだと思います。僕は基本的には商業ベースを念頭に置いて作るものではなく、美術作品と同じような観点で映像作品を作っています。それでも、自分の世界を表現することと、多くの人に観てもらって次の作品の制作費を生むという事は、同時に考えていかなければならないことです。僕のやっているようなアートアニメーションを制作している人は沢山いるんですが、作品を出す場がない。CMなどで需要はあるのですが、1分や2分の作品だと一般の方に観てもらう商業作品としては成立しないんです。だから、今回の作品では、『長さがある』という事も大切でした。この作品が劇場公開されるという事が、同業者に対しても励みになればと思っています」

――前作から8年かかったわけですが、中田監督は次はどんな作品を制作されるのでしょうか?

中田「立体の展示をメインにした短いアニメーション作品になると思います。次はそれがやりたいですね」

――最後に、中田さんはクリエイターや、それを目指す人にとって、大切なものとは何だと思われますか?

中田「よく『大切なのはオリジナリティを持つ事』だとかいいますが、僕はオリジナリティを探したりはしません。自分の出来る限界より一歩先のことを『やる事』が、オリジナリティにつながるのだと思います。やる前に考えて出来なくなるよりも、とりあえずやる。そしてそれを続ける。そうやって生まれた作品が、周囲を楽しませるオリジナル作品になるのだと思います」

中田秀人

1972年、兵庫県出身。京都精華大学卒。映像制作チーム「ソバットシアター」代表。ストーリー・世界観・デザインを形成するチームの支柱。2000年、短編作品『オートマミー』で数々の賞を受賞。2002年にソバットシアターとして京都芸術文化特別奨励者に選ばれ、翌年、五島記念文化賞美術新人賞を受賞。『電信柱 エレミの恋』では監督・脚本・編集・キャラクターデザインを担当
※11月8日、11月13日には東京都写真美術館 創作室にて、中田監督によるワークショップも開催。詳細はこちら

『電信柱エレミの恋』は10月31日より東京都写真美術館ホールにてロードショー

撮影:糠野伸