--"宇宙大麦"は収穫した後、どうされたのですか?--

高橋氏: 岡山大学杉本准教授とIBMPの協力の下、2008年に当社の那須工場で宇宙を旅した大麦の子孫(3代目)のみを用いた 「SAPPORO Space Barley」(以下、スペースバーレイ)を試験醸造しました。できたビールはわずか100リットルでしたが、通常のビールと「変化がない」満足のいく味でした(笑)。スペースバーレイに対する反響は海外からも大きく、特にビール大国・ドイツが熱心でした。

アルコール分5.5%の「SAPPORO Space Barley」(左)とその記者会見の様子

--次に、8月に"宇宙へ飛んだ"ホップの実験について聞かせてください--

高橋氏: 今回、参画した宇宙航空研究開発機構(JAXA)による国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟での有償利用実験は第2回目で、リバネス社を介しての参画になります。同社は同実験の成果を教育に活用しています。当社のホップは「きぼう」日本実験棟で2010年2月までの約6ヵ月間保管された後、山崎直子宇宙飛行士と共に地球へ帰還する予定となっています。打ち上げは何度も延期され、最終的に4回目でようやく成功しまして、無事に打ちあがるまではヒヤヒヤしました(笑)。

「きぼう」で保管されているサッポロビールのホップ種子

--今、ホップは宇宙でどのような状況にあるのでしょうか?--

高橋氏: 密封したビニール袋に入った状態で「きぼう」に保管されていますが、結果は来年2月に帰国してからのお楽しみということになります。他の植物の場合、発芽状況が芳しくなかったものもあると聞いており、とにかく無事に帰還することを祈っています。
また、ホップは大麦と違って雌雄別の植物であるため、実際に育てて調べてみないと雄種と雌種の組み合わせがわからないという特徴があります。今回、選ばれた種子はいずれも品種登録をしていないので、子孫はすべて新種になります。ホップはつる性植物であるため、実験結果は他の植物に応用できる可能性もあり期待が大きいです。

--大麦、ホップときたら、次は酵母の宇宙実験でしょうか?--

高橋氏: ぜひ、挑戦したいと考えていますが、酵母は微生物であるため、植物とは異なる点で調整が難しいでしょう。現時点では、アルコールと宇宙空間の関連性が解明されていませんが、将来は宇宙空間において「当社のビールで乾杯!」ができたら……などと、夢は広がる一方です。人類の未来のためにも、宇宙空間で自給自足できる体制を作っていけたらと考えています。

--「きぼう」が完成したことは、宇宙実験の観点からも意義が大きかったと思われますが--

高橋氏: これまで米国を中心に他国の実験棟を借りていたことを考えると、自国内の実験棟で実験ができるようになったことは大きな一歩と言えます。

インタビューを終えて - バイオ燃料にも注力するサッポロビール

サッポロビールでは、ビール原料の宇宙実験だけでなく、環境対策として、植物の捨ててしまう部分や食品の残渣を用いてバイオ燃料を作り出す研究も行っている。バイオ燃料への取り組みとして、今年11月より、ブラジルの国有の石油会社であるペトロブラスとバイオ水素の大規模プラント構築に向けた実証実験を行うそうだ。バイオ水素燃料は燃焼した後に水しか出ないため、CO2削減に大きく貢献するという。
宇宙実験からバイオ燃料まで、人類の未来に向けて幅広い研究に取り組んでいるサッポロビール。高橋氏がおっしゃるように「地道な活動」をコツコツと続けていくのは簡単なことではないと思うが、これからも新たな成果が発表されることを楽しみにしたい。