本誌でもお伝えしたが、サッポロビールは今年8月、宇宙航空研究開発機構による国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟での有償利用実験に参加し、同社の育種ホップはディスカバリー号とともに宇宙に旅立った。
実のところ、同社の宇宙実験への取り組みは今回が初ではなく、すでに大麦の宇宙保管の実験が実施されている。今回、サッポロビールサッポロビールの広報担当を務める高橋知美氏に、同社の宇宙実験への取り組みについて話を聞いた。
--飲料メーカーであるサッポロビールが宇宙実験に取り組んでいる理由を教えてください--
高橋氏: 当社では、「よりおいしいビールをつくること」、さらに「生産者の方が育てやすい原料を開発すること」を目指し、さまざまな育種(品種開発)研究を行っています。ビールの原料に関してこうした研究を続けているのは国内では当社だけであり、世界的にも高い評価を得ています。 育種とは、物の遺伝的な性質をもとに改良してより良い品種を育成することであり、遺伝子組み換えとは異なります。
--今年8月に参加されたホップの宇宙実験より前に、大麦の宇宙実験に参加されたそうですが--
高橋氏: 長年、大麦研究の権威である岡山大学資源生物科学研究所の杉本准教授と大麦の共同研究を行ってきました。一方、杉本准教授はロシア科学アカデミー生物医学研究所(以下、IBMP)と共同で宇宙空間での自給自足に向けた食物育成栽培に関する研究に取り組んでいて、その研究の一環として、2006年に国際宇宙ステーションロシア実験棟で実施された宇宙実験に、自社開発品種「はるな二条」を試料種子として提供しました。
--サッポロビールの種子が宇宙実験に選ばれたのはなぜでしょうか?--
高橋氏: そもそも、大麦は生育に水をあまり必要としないなど、穀物の中でも過酷な空間でも育ちやすい強い品種であるため、宇宙空間での生育実験にふさわしいと言えます。さらに、当社の種子が選ばれたのは、種子の品質の良さに加えて、当社が育種研究の実績として大麦について膨大なデータを有している点などが、効率の良い研究を実施する上で有意義だと評価されたようです。
--2006年に実施された大麦の宇宙実験の具体的な内容について聞かせてください--
高橋氏: はるな二条は国際宇宙ステーションのロシア実験棟内で5ヵ月間保管されて地上に持ち帰られるとともに、船内での発芽・28日間の生育に成功しました。これは世界初のことです。持ち帰られた大麦の種子は全部で26g(約650粒)でしたが、そのうち当社は8グラム・約26粒を譲り受けて、当社のバイオ研究開発部の試験圃場で子孫を栽培し検証を行いました。検証は、「種子の状態で遺伝子などに変化はないか」、「植物の状態で変化はないか」、「加工食品の状態で変化はないか」といったように、3パターンの検証を行い、いずれにおいても変化はなかったことが確認されました。
実のところ、「変化がない」というのは重要なことです。宇宙空間が人体に与える影響は小さくなく、若田さんなど、宇宙飛行士の方は地球に帰還した後、リハビリを行っています。それを考えると、宇宙空間で保管されていた大麦の種子に変化がなかったのは重要でしょう。さらに、驚くべきは発芽率が100%だったことです。
また、"宇宙大麦"を活用して地元の子供たちを対象に「宇宙教室」も開催するなど、当社は宇宙実験の成果を子供たちの教育に役立てるという活動も行っています。