パソコンの進化と似た道を辿る組み込み

また、こうした現状について、同氏はパソコンの進化と似たような道を辿ってきていると指摘する。つまり、パソコンのOSがDOSの時代、その上で動作するアプリケーションを作るにはさまざまなソフトを開発する必要があった。これがWindowsの登場により、APIの統一などが行われた結果、アプリの開発は比較的楽になった。そして現在、組み込み市場においてLinuxが使われるようになってきたが、「開発側の感覚としては、Windowsが登場する前のDOSのような時代に戻った感じ」(同)であり、それが「Androidという存在が提供する数100個規模の統一されたAPIなどにより、それぞれのシステムに応じたアプリケーションの開発が容易になる」(同)と、Androidを組み込み業界のWindowsになぞらえる。

上段がパソコンにおける変遷、下段が組み込みにおける今後起きると予測される動き

だがしかし、組み込み機器は、LCDのパネルサイズが画一的でなかったり、使用されるSoCのアーキテクチャも異なるなど、一言でAndroidで対応とすることができない。ではどうするか、同社ではさまざまな分野で適用可能にするため、「Tools」「Services」「Software IP」の3つの技術を用いてAndroidを商用に使用できるようにしていくとする。

そのための今回の買収であり、「元々のMentorが持つソリューションと、Embedded Alleyの資産を融合させることで、それらの対応が可能となる」(同)としており、2つを組み合わせることで、組み込みシステム内で、LinuxとRTOSの併存が可能となり、クリティカルなシステムをRTOSが、GUIなどが求められる部分はLinuxがそれぞれ担当することが可能となる。

3つの技術を提供することで、Androidの商用適用を進めることが可能となる

これまでのソリューションと新たなソリューションを組み合わせた提供が可能

「我々には3DのUIを作製することが可能なNucleus graphicsというツールもあり、Linux/Androidのサポートにより、"3D UI""Multi-OS on Multi-Core""Android"の3つを組み合わせた組み込み機器を実現できるようになる」(同)とするほか、「Nucleus graphicsは、組み込みの知識がない人、例えばデザイナーでも扱えるように設計した3D作成ツール」(同)とし、活用することで誰でもよりリッチな組み込み機器の実現が可能になるとする。

Nucleus graphicsにより画像をスキンのように用いることで3D化を実現できるようになる

メンター・グラフィックス・ジャパンのWW ESC セールスディレクターである坂本秀人氏

また、組み込み分野でのAndroid開発においては、日本の組み込みベンダらが中心となった「OESF(Open Embedded Software Foundation)」が2009年3月に設立、7月には台湾支部が設立され、現在米国支部の設立に向けた取り組みが進められているが、同社も「OESFについては9月10日に参加した」(メンター・グラフィックス・ジャパンのWW ESC セールスディレクターである坂本秀人氏)としており、今後、OESFの各部会に同社のエンジニアを派遣し、各分野に応じたAndroidの共通プラットフォームの開発に向けた取り組みを進めることとなる。

Mentorの提供する組み込み向けソリューションの全容(OSを中心に開発ツール、開発サービスが囲む形となっている。なおSMPとなっているがAMPも対応可能としているとのことで、ハイパーバイザについてはカスタマと一緒に開発に取り組んでいくとする)

同社のAndroidサポートは、まずMIPSアーキテクチャ向けから提供される。実は先日開催されたFreescale Technology Forum Japan(FTFJ)2009の展示会場において、同社がPowerPC対応Androidのパネル展示を行っていたのだが、これについて坂本氏は、「今後、近いうちにPowerPCへの対応を実現する計画」としており、その後、ARMとx86への対応を行っていくロードマップとなっているとするほか、「SHについても、OESFに加入し続ける限りはサポートする予定」(同)としている。