エンジニアが身に付けるべきもの

では、これからのエンジニアは、具体的に何を意識し、どういったスキルを身につけるべきなのか。羽生田氏は、その参考になる情報をいくつか提示した。

ザックマンフレームワーク

その1つが、エンタープライズアーキテクチャの原点とも言えるザックマンフレームワークである。企業システムに対するさまざまな立場の視点を5W1Hの観点で分析する同フレームワークは、各ステークホルダーに必要なものを整理するうえで有効。プロジェクトの各所で発生する衝突を緩衝し、それをうまく統合するうえで役立つという。

ザックマンフレームワークの例

要求開発方法論「Openthology」

また、要求開発アライアンスで提唱している方法論「Openthology」もエンジニアの武器になると説明。特に要求を開発するという考え方はシステムを開発するうえで不可欠で、これをおそろかにすると、ビジネス価値/ソーシャル価値を生み出すシステムが作れない。それどころか、「そもそも本当の意味での十分な品質テストはできない」と説明した。

要求開発方法論の骨子

方法序説と5つの方法論

さらに、羽生田氏が「問題解決に有効」と述べるのがデカルトの『方法序説』だ。「偏見を捨て、分析し、総合し、具体例で検証せよ」という同書の言葉を引用したうえで、問題解決に有効な方法論として、「Divide and Conquer(分割して解決せよ)」、「Name and Conquer(名前を付けて解決せよ)」、「Abstract and Conquer(抽象化して解決せよ)」、「Exemplify and Conquer(実例で検証せよ)」、「Visualize and Conquer(可視化して共働せよ)」という5つを提示した。

問題解決に有効な5つの方法論

総合力を高めるために

そして、自身は、エンジニアとしての総合力を高めるうえで、上記方法論のほかに、「メモをとる」、「マップを描く」、「優れた人を真似る」、「2-8の法則(上位2割を押さえれば全体の8割をカバーできる)を意識して、2割を押さえる」の4つを実践していることを紹介。これらを身に付けることで、新しい時代にも対応していけるエンジニアになれることを説明した。

総合力向上に役立つ5項目

クラウドコンピューティング時代のITSS拡張点

これらに加え、羽生田氏は、クラウドコンピューティング時代に必要になるITスキルについても言及した。

クラウドコンピューティングの利用が進むと、既存のサービスを再利用して安全かつ迅速に必要な機能/サービスを構築できるようになる。そのような環境が整えば、システム開発そしてビジネスにこれまで以上のアジリティが求められるようになるのは間違いない。その点を意識すると、現在のITスキル標準は以下のスライドのように拡張されることになるという。

クラウドコンピューティング時代のITSS拡張点

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さまざまな観点からシステム開発の今後と、エンジニアに必要なスキルを紹介した羽生田氏。多くの示唆に富んだ氏の講演は、エンジニアが自身のキャリアを見つめなおすうえでも役立ったことだろう。

羽生田氏は最後に米IBM ミルズ氏の言葉を引用しながら、ソフトウェアエンジニアに必要な基本資質として「スタミナ」、「国語能力」、「ユーモア」の3つを列挙。これら3つのキーワードを意識して、「ココロとカラダを管理する能力」、「読む力、書く力、話す力」、「楽しませる・ハッとさせられる能力」を磨き、ぜひとも魅力的なエンジニアになってほしいというメッセージを残して降壇した。