--「重要な欠陥」「意見不表明」の原因は何だったのか?--
中野氏: 「モニタリング不備」が31件、「経理のスキル不足」が26件、「人員不足」が22件と原因の上位3位となっている。この結果から、内部統制の欠陥は「ヒト」に起因するケースが多いことがわかる。内部統制の評価において人材がカギとなるということだ。
内部統制を評価する際、企業全体のプロセスを見渡すことが不可欠であることを踏まえ、企業では内部統制を人材育成の一環として利用してはどうだろうか? 具体的に言えば、内部統制業務を経営者までのワンステップにするということだ。なぜなら、内部統制の取り組みでは、企業全体を把握することが行われ、これは経営者にとって必要なことだからだ。内部統制はグループ経営の運営にもかかわることであり、企業の発展のために内部統制を進める中で次世代のリーダーを育成してもらいたい。
--今回提出された内部統制報告書から感じたことがあれば、聞かせてほしい。--
中野氏: 金融庁から見本となる様式が公開されているが、 同じ「内部統制報告書」といえど、企業によって表現や書式が異なっていたのが興味深かった。参考にしてもらいたいのは、丁寧に開示していた企業である。自社の内部統制の整備に向けて行ったことを仔細に開示することは、言い換えれば、ディスクロージャーに対する企業の姿勢を示すこと。日本企業は内部統制にきっちりと取り組んでおり、もっと情報を開示することで自社の姿勢をアピールしてもよいのではないだろうか。
--内部統制報告書を終えて、企業は現在どのようなことを考えているのか?--
中野氏: 2006年に日本版SOX法の施行が決定してからこれまで、企業は内部統制の構築に向けて大規模なプロジェクトを設けて取り組んできたが、非常に長い道のりだった。その成果がようやくまとまったところであり、"ホッとしている"というのが正直なところであろう。また、2年目の対応についても、積極的に取り組んでいくというよりは、初年度の反省を生かしつつまとめていくという感じになるのではないだろうか。本格的な改善のステップは3年目以降からになると思われる。
また、内部統制初年度の結果から、業務プロセスの標準化に重要性を実感した企業が多いようだ。内部統制にかかるコストは、業務を分散している企業において、業務を集中化している企業の2倍に及ぶ。したがって、業務プロセスの標準化を行わないとコストにも跳ね返ってくるのだ。企業が生き残るためにも着手すべきだろう。
--内部統制に取り組む企業にアドバイスをお願いしたい。--
中野氏: 内部統制を単なる「法対応」にとどめないでほしい。繰り返し話しているように、内部統制に時間とお金がかかるのは事実だが、それを義務としてとらえてしまうと、どうしても後ろ向きな取り組みになってしまう。内部統制は取り組み方次第で、企業の発展につなげることができる。そうすれば、内部統制にかかる時間やお金は、コストではなく投資となる。経営者をうまく巻き込んでいる企業ほど、内部統制を企業経営に生かすことができているようだ。
現在も、日本企業ではグローバル化の影響で、構造変革を余儀なくされている。それに伴い、プロセスやシステムのあり方も変わってきており、これまでと同じ対応の仕方では企業の発展は望めない。内部統制を企業発展のための一手段として、ぜひとも積極的に取り組んでいただきたい。