CMプランナーは芸術家ではない
――澤本さんは、ご自身をアーティストとしては認識していないのですか?
澤本「していないですね。僕は知恵の使いどころを映像を作る事に使っているだけです。だから、僕が仮に商社に勤めていても同じように仕事をしていたと思います。自分自身を芸術家と思った事はないんです。むしろ、カウンセラーに近いと思います」
――あくまでも、CMプランナーはアーティストとは違うとお考えですか?
澤本「僕のコンテが例えば僕の死後20年たって発見されても役に立たないんです。今、ここに生きている人々に認知されて商品が売れないと、僕のコンテには意味がないのです。今の人と会話するという部分が、アーティストとは違うと思います。純粋に絵が上手、綺麗な映像が作れるという人は沢山います。でも、CMプランナーに大事なのは、折衝する、問題点を整理できるという能力です」
――「今の人と会話する」という澤本さんが、これから制作してみたいCMというのは、どんなCMなんでしょうか?
澤本「小さい会社の仕事がしたいですね。大きい会社のCMを大量に流すというスタイルでなく、小さい会社のために、少ない予算でもコンパクトなCMを作りたいですね」
テレビCMはなくならない
――「小さい会社の仕事」と発言されましたが、最近のメディアの変化や景気の影響で、広告形態は変わりつつあります。その部分に関して感じる事はありますか?
澤本「CMの作り方というよりは、CMを作る人が多岐にわたり、幅が広がるとは思います。テレビを基準としていた、15秒という時間も増えると思います。不景気というと、CMが終わったという話がよく出ますが、CMなしで商品を売るのは凄く大変だということはこれからも変わりません。終わるのではなく、お金のかけ方というか、バランスが変わってくると思います」
――バランスという部分では、テレビCMの衰退が最近言われています。
澤本「まだ、僕には何が正しいかわからないですね。テレビがダメで、インターネット広告は伸びているともいわれていますが、それは制作単価が安いからで、効果的という部分ではやはりテレビという考え方もあります。20年後にインターネット中心に広告がシフトしていくという現状の予想が正解かどうか、まだわからないですね。人間は物が映像として動くと、それを目と耳で追います。映像が好きという普遍の真理があると思うんです。テレビCMがゼロになることはないです。もちろん形態は変わると思いますが、代替案もないのでテレビCMはなくならないと思います」
――CMが変わると、広告代理店のあり方も変わってくると思うのですが。
澤本「変わると思いますが、どう変わるかが、まったくわからないですね。ただ、これからは、戦略までコンテンツに含むかどうか、そういう部分にシフトしていくような気がします。コンサルティングを実物、証拠付きでやるという感じですね。昔はクライアント先に行くと、まずは営業の人間が呼ばれる事が多かったのですが、最近は最初からクリエイティブの人間が呼ばれる事が多いんです。ブランディングという言葉が浸透した頃から、会社の上層部が広告やイメージが売り上げに直結するという事を理解し始めました。それぞれの会社の宣伝部の意味合いも、以前より重要で経営戦略の中核となりつつあります。これは正しい流れだと思います」
――「戦略までコンテンツに含む」という具体的なイメージはあるのでしょうか?
澤本「例えば、箱根駅伝で、ソフトバンクのキャラクターを使い読売新聞のCMを作りました。『新聞を読ませるための道筋』をCMで作ろうとしたんです。そういうスキームというか、誘導をこれからはCMで沢山やっていくと思います。同じことをやっていても未来はなくなります。目に見える映像の部分だけでなく、広告の仕組みとして、これまでにない事をやるのが大切だと僕は思います」
自身をアーティストではないと言い切る澤本氏。彼はCM制作や完成した作品を通じて現在の人々と会話しながらも、これからのCMのあり方を、ひとり厳しく見つめている。
インタビュー撮影:中田浩資