Googleが政治に取り組む理由とは
今回のプロジェクト立ち上げの目的について、同社代表取締役社長の辻野晃一郎氏は「Googleは、いかにしてインターネットを身近なものとして使っていただき、生活を豊かにするかに取り組んできている。人の暮らしを良くする、国を良くするためには、やはり政治の役割が大きいと捉え、グーグルジャパンも積極的に動いていきたいと考えた」と記者会見の場で説明した。
そして、プロジェクトの詳細を、馬場康次氏がデモを交えて説明したのだが、質疑応答では矢継ぎ早に質問が投げ掛けられ30分以上の時間が取られた。また、会見終了後も、辻野社長と馬場氏は、細かな点についての質問を受けていた。さて、Googleが政治に取り組む理由はどこにあるのか。
――投稿に関しては、ID登録が必要となっているが、自社サービスを広める一環になっているのか?
辻野氏 今回のプロジェクトに関しては、プロダクトの宣伝やトラフィックを増やすといったことなどを、一時的な目的にしているものではありません。インターネットをもっと有意義に使っていただくための、また、Googleが有権者と候補者との対話を促進することのお役に立てるのではないかという思いが強い動機になっている。
――日本では、(こういった企画を)選挙で大手企業が組織的にやることはなかったのではないか。それをGoogleがやることの意義とインパクトは?
辻野氏 ヤフーの「Yahoo!みんなの政治」などのように企業の試みは存在しているが、ネットが完全に市民権を得て、政治の道具として利用されている米国と比較して、公職選挙法での縛りもあり日本は遅れていると感じている。今回、Googleがご提供できるものは最初のステップに過ぎないかも知れないが、そういったところからネットやプロダクトを有効活用していただくことが政治の発展にも繋がるのではないか。最近では、横須賀市長選挙(神奈川県)で、現職を破った33歳の吉田雄人氏がGoogleを活用するなど、日本でもネットを政治に積極的に活用した成功事例も出てきた。Googleのツールを含めインターネットが、日本の発展にとってもっと役立つものであるように、有権者にとっては情報入手が簡単になることを目指している。Googleが動くことは、日本にとっても意義があるのではないかと考えている。
――候補者側からのネット利用の格差を問われるのではないか?
辻野氏 いろいろな考え方があると思いますが、Googleの使命は世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスして使えるようにすること。ネットを利用して、選挙関連の情報に少しでも多くリーチ可能にしていくことが、むしろデジタルデバイトをなくしていくための取り組みであり、使命だと考えている。
公職選挙法改正に向けても忍耐強く動いていく姿勢
――公職選挙法改正についての提案はあるか?
辻野氏 現行の選挙法下では、公示後以降、実際の選挙活動期間にネットを積極活用できない。選挙期間中に、もっとフレキシブルにネットメディアが活用できるようになれば、候補者にとっても、有権者にとっても有効なのではないか。緩和されるべきと考える。
この選挙法改正についてのGoogleの姿勢について社長にお訊ねしたいと思い、会見後にさらに質問を投げかけてみた。
――公職選挙法改正の話はここ10年程、大きな選挙がある度に出て来ては立ち消えになっている。政治家の中ではプライオリティが低い問題となりがちな中で、Googleのような企業がもっと介入して行かなければ、変化がないのではないか?
辻野氏 そうだと思います。私どもがもっとちゃんと忍耐強く動かないといけないなと思っています。今回の結果を見て、これは有効だと判断いただけるのであれば、次のステップに積極的に動いて行きたい。
――次のステップというと、公職選挙法改正へ向けて関連機関などにアドバイスなどをしていくということですか?
辻野氏 アドバイスというと言うとおこがましいが、例えば、(楽天の)三木谷さんが薬事法関連で積極的に舵を取ってやっていらっしゃいますが、グーグルジャパンとしても、日本のインターネット関係を良くするために、その業界とレギュレーションを作って、こちらからも改善に向けての意見を申し上げるなど、必要に応じてやって行く必要があると思っています。
辻野社長は、今年1月の社長就任時に、グーグルジャパンとして、米国本社の窓口としてだけではなく、産業、人々、政治などにプロアクティブに発言して行動していく責務があるとの考えを示していたが、この半年間、そのような分野での活動を一歩ずつ進めてきているそうだ。そして、「Google 未来を選ぼう 2009」については、4~5月に立ち上げが急遽決まり、社内のボランティアを集めて進めたプロジェクトなのだと言う。時間もなく、社内リソースも限られた中で社内ボランティアを募り政治プロジェクトに協力するあたりは、本来の「Google」が企業イメージとして持つ"らしさ"を感じる。
同プロジェクトについてGoogleでは、Googleのサイト内を使って告知をしていくが、各政党や候補予定者に個別に案内を行うことはしないという。国民の質問に答えるという姿勢を見せることはアピールになると思うのだが、公示日までの日がない中で、候補予定者たちからのアテンションがどれだけ集まるかが気になるところだ。