統一基準の策定とコンテンツの最適化が課題
デジタルサイネージコンソーシアムとして、今後解決していくべき課題について「現在はまだ業界の統一基準が定まっておらず、デジタルサイネージを提供する事業者ごとにハードウェアやソフトウェアの仕様が異なっている状況です。そこで、各種ガイドラインの制定を急ぐ必要があります」と語る伊能氏。
これは広告主やコンテンツの制作事業者など、出稿する側から見ても非常に不便だ。必要な情報が少ない上に各社でシステムが異なるため、入稿の基準や期間、ファイルタイプといった要求条件もバラバラ。広告を出す場所、ディスプレイの大きさごとに作り直していたのではコストがかさむ一方である。また、著作権の処理や倫理的なルールが統一されていないのも問題だろう。
その他の課題として伊能氏は「テレビのコンテンツをそのまま流しているケースが散見されますが、視聴環境の違いから十分な効果が得られないこともあります」と語る。
例えばテロップなどが見えづらかったり、音が出せない環境があるにも関わらず、デジタルサイネージに適したコンテンツかどうかを見定めないまま流しているケースもあるわけだ。
こうした課題を解決するべく、デジタルサイネージコンソーシアムでは月1回の勉強会を開催してメンバーの知見を高めたり、海外の動向を含む情報収集に励んでいる。さらに内部には、システム仕様のガイドラインを策定する「システム部会」、媒体評価基準や効果測定方法の研究を行う「指標部会」、効果的かつ低コストなコンテンツの指標や著作権処理ルールを確立する「プロダクション部会」、設置場所のセグメント分けや最適なモデルを検討する「ロケーション部会」というテーマごとに4つの部会を設置。それぞれの分野で積極的な活動を展開している。
デジタルサイネージコンソーシアムにより業界全体の技術向上や基準統一が図られる一方で、各企業単位での取り組みも活発化している。
新製品の開発はもちろん、その代表的な例がNTTと電通が2月16日から3月15日にかけて行った、350万人規模のフィールド実験だろう。
これは、東急電鉄の電車内に設置されたトークビジョン、六本木ヒルズや赤坂サカスなどの商業施設、数カ所の主要な駅を舞台として、デジタルサイネージが持つ効果を検証するというもの。伊能氏はNTTの立場から「デジタルサイネージをネットワークでつなぎ、朝昼晩の時間帯、場所などに応じてメディア化に必要な要件や効果的な手法を確認しました」と語る。
具体的には、目的は告げずに乗車する電車を指定し、そこに流した広告コンテンツを見たか、印象に残ったかをモニター調査するといった形式で行われた。詳細結果については7月下旬以降の発表が待たれるが、伊能氏によれば「1カ所よりは複数個所で同時に広告コンテンツを配信した方が記憶に残りやすい、印象が深まるという仮説は概ね想像通りでした」と、当初の仮説を裏付ける形になったようだ。また「今後は天候や気温などのセンシング情報を含められればと思います」ともコメントする。
オフィスや中小規模の店舗など身近な存在へ
伊能氏は「あくまでも私の個人的な意見ですが、デジタルサイネージは大きく第1世代から第3世代まで分けられると思います」と語る。まず第1世代となるのは、一定レベル以上の設備投資ができ、なおかつ多くの人が集まる金融や鉄道などで高機能なデジタルサイネージが導入されてきた2005-2007年。続く2008年からの第2世代は、小売・流通関連の事業者に導入が増え始めた時期だ。
特徴としては、チェーン展開のために全体の設置数が多くなるほか、大きな店舗では棚やレジ脇など1店舗でも複数の表示機器が必要になること。そこでメーカー側でも、機能は限定されるが安くてシンプルなシステムを増やす傾向が見られ、中にはSaaSやASPのようにサービスとして月額料金制で提供する企業も複数出てきているという。
そしてこれからの第3世代は、オフィスや中小規模の店舗などにデジタルサイネージの導入が進むのではないかとの予想があるという。オフィスでの利用は、自社および競合他社の関連情報、商品や株価に関する情報など、社員に必要な内容を流し続けるだけでも十分に効果はある。
また、導入側のポリシーにもよるが、表示情報に広告が入っていても問題はないだろう。中小規模の店舗については、大型システムではなくフォトストレージのような小型で安価な表示機器が出てくれば、普及率が大きく向上するといえる。
このように、デジタルサイネージは急速に身近な存在となりつつある。昨今では各種メディアの変動が激しくなっているだけに、新しい広告需要を生み出す存在として期待していきたい分野だ。