テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の4大マスメディアが徐々に衰退を見せる中で、「時間と場所を特定できる唯一のメディア」として注目が集まっているデジタルサイネージ。そこで今回は、デジタルサイネージコンソーシアムの専務理事であり、NTT 研究企画部門 プロデュース担当 担当部長を務める伊能美和子氏に、業界の動向や将来予測などについて聞いた。

古くて新しいデジタルサイネージ

デジタルサイネージコンソーシアムの専務理事であり、NTT 研究企画部門 プロデュース担当 担当部長を務める伊能美和子氏

街頭や交通機関をはじめとした屋外にディスプレイなどのデジタル表示機器を設置し、周囲の人々に対して情報発信を行うデジタルサイネージ。最近各種メディアに多く登場する言葉だが、その存在自体は意外にも古くからある。

デジタルサイネージの定義について伊能美和子氏は、「広告として主に使われるのは65インチ程度のディスプレイですが、画面サイズについて厳密な定義はありません。コンテンツに関しても静止画のようなアナログで作成したものを表示する場合があるので、必須条件としては表示機器がデジタルであることくらいです」と語る。

つまり、1980年に登場した新宿のSTUDIO ALTAの「アルタビジョン」をはじめ、渋谷駅前に数多く設置されている大型のディスプレイも、広義でデジタルサイネージの一種といえるわけだ。

ただし、こうした大規模なものは「屋外ビジョン」としてJPVA(日本パブリックビューイング協会、旧:JMBA日本大型ビジョン事業者協議会)が啓発活動を推進しており、デジタルサイネージコンソーシアムの実質的なメインターゲットはそれよりも小型のものを指すケースが多い。東京の山手線、中央線、京浜東北線などの車両内に設置された「トレインチャンネル」や、東急電鉄の「東急ビジョン」が、最も代表的かつ身近な例といえるだろう。

東京の山手線、中央線、青梅線、京浜東北線などの車両内のドアの上に設置されている「トレインチャンネル」

また「現時点ではまだ全体の10%程度ですが、私たちが標榜しているのはスタンドアロンの表示機器ではなく、ネットワークでつないでメディア化することです」とも語る伊能氏。ちなみにネットワークの定義については、設置環境によってスペースの制約や運用形態が違うため、有線・無線を問わず幅広い形式を含むそうだ。

広告費全体の拡大で1兆円規模の市場へ

ここ数年でデジタルサイネージ業界が盛り上がりを見せている点について伊能氏は、「明確なきっかけはありませんが、多くの人々が4大マスメディアの衰退に気付き始めたこと、ネットワークに関する設備や機器が低価格化したこと、そして何より「デジタルサイネージ」という言葉自体が世の中に浸透してきたことなどが主な要因として挙げられます」と分析する。

その影響はデジタルサイネージコンソーシアムのメンバー構成にも表れており、2007年6月の設立当初はメーカー企業が中心であったのに対し、2008年頃からコンテンツ制作関連の企業が増加。また、デジタルサイネージという存在がメジャー化するにつれて、大手メーカーの注力度が増してきたのも大きな変化だ。

こうした中で、デジタルサイネージが持つ市場規模の大きさにも注目が集まっている。2009年1月に発表されたシード・プランニングの調査では、デジタルサイネージの国内市場規模は2008年で推定560億円、2015年には1兆円市場に成長する可能性があると予測。伊能氏も「これは広告費だけでなくコンテンツ制作費や機器の販売、ネットワーク収入などを合計したものですが、私たちも1兆円規模になる可能性を大いに秘めた分野だと感じ、同時にそれを実現するべく取り組んでいます」と語る。

シード・プランニンが2009年1月に発表した「デジタルサイネージ市場の将来予測」

また、一部では4大マスメディアから広告費が流れ込むという予想もあるが、この点について伊能氏は「確かにそうした部分もあるとは思います。しかし、より重要なポイントは従来デジタル化されていなかった領域が、デジタルサイネージに進出することです」と語る。限られた広告費を奪い合うのではなく、今までアナログだった領域の補完、そして広告以外でも公共のお知らせなどの情報提供全般を代替することで、メディアにかける広告費全体の拡大が期待できるのである。