Chromeの今後
Chromeの今後についてセッションで語られたのは、パフォーマンス向上などの非機能要求を除けば以下のような項目だった。どれも興味深い事柄ばかりだ。
- HTML5への対応・・・HTML5の仕様を満たすべく、Googleの開発者はWebkitやV8、Chrome自身に対して日々改善を続けている。同じWebkitを使用したSafariに比べてHTML5の対応が遅れているのは、Chromeのマルチプロセス・サンドボックスアーキテクチャ上で、いかにしてWeb StorageやWeb Workersをセキュアに実装するかで入念な検討を行っているからとのことである。特にWeb Workersに関しては、ワーカが専用のプロセスで実行されるよう設計しているという
- 拡張機能・・・ブラウザの機能を拡張できるようにすることは、ユーザからの要望としては最大のものだとのことで、急ピッチで開発を行っているところだそうである。拡張機能はChromeの動作を不安定にしないよう、専用のプロセスによって実行される。Chromeの拡張機能は、HTML/JavaScript/CSSを用いて開発することになるという
拡張機能に関しては、読者諸兄にとっても非常に興味が有るところだろう。セッションのスライド写真を掲載しておくので、ご覧になっていただきたい。
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User Scripts・・・FirefoxのGreaseMonkey相当のことを、Chromeでも行えるようにする仕組みを開発中で、開発者向けのビルド(Chromium)では実験的に利用可能。Chromiumの起動時に、以下のオプションをつけることでUser Scriptsを有効にできる
- enable-user-scripts・・・User Scriptsを有効にする
- user-scripts-dir・・・スクリプトを読み込むディレクトリを指定する
Chromeの開発手法・体制
Chromeの開発に関しては、興味深い話をいくつも伺えた。その一部を以下に紹介する。
- Chromeのテストは可能な限り自動化されている・・・画面のレイアウトテスト、パフォーマンステスト、UIテストなど、様々なテストが可能な限り自動化されているという。総ファイル数88,000を超えるというChromeのファイル構成を示したグラフ(下図)が示されたが、テストコードが圧倒的多数を占めているのがお分かりだろう
Chromeの開発に使用されているツール・・・自動ビルド・自動単体テストのためにBuildbot、コードレビューのためにrietveldというツールが使用されている
ChromiumとChromeの関係・・・Chromeは、オープンソースのChromiumをベースとして開発されている。開発者がどんどん実験的なコードを投入するため、機能が高いながらも安定性に欠けるChromiumをもとに、「Google」の名を冠するにふさわしい安定性を備えた「Google Chrome」がリリースされると言うわけだ
Chrome開発者とWebkitの関係・・・Chrome 1.0リリース頃までは、主にWebkitの公式ビルドを取り込むだけだった開発モデルも、今やGoogleの開発者達が積極的にWebkit開発に参加しており、3人のレビュアと10人以上のコミッタを擁するまでになっている。Chrome2.0で採用されているWebkitはSafari4のものとほぼ同じとの事。今後も開発には積極的に加わり、HTML5やCSS3の実装、さらなる高速化などに貢献していくそうだ
最後に
こうして、Webブラウザと言う製品のレベルを底上げするのに、非常な貢献を果たしているChromeであるが、最後に坊野氏が語った「Webブラウザのあるべき形」が非常に印象的であった。
「将来的には、Webブラウザの存在を全く意識しない世界になれば良い。Webにアクセスするために『Webブラウザ』という専用ソフトが必要とされていた、と言うエピソードが良き昔話になれば良い」
GoogleはChromeを開発するにあたってこの理想を掲げ、
- 「標準を提案して自ら積極的に推進し(HTML5など)、どのWebブラウザで見てもレイアウトが正しく表示されるようにする(そして、ブラウザの存在を意識させないようにする)」
- 「ブラウザの実行速度を上げる(そして、ブラウザの存在を意識させないようにする)」
- 「ブラウザの安定性を上げ、Webページの実行に失敗したとしてもブラウザがクラッシュしたりする事がないようにする(そして、ブラウザの存在を意識させないようにする)」
といった課題を設けたのだろう。そしてChromeはそれを急ピッチで実現しようとしている。つまりChromeは単なるWebブラウザではなく、「Webを進化させる」というGoogleの取り組みと直接結びついているのだ、という事に思い至り、非常に感銘を受けた次第である。