マーケットの垣根のない世界に、ルールとコントロールを

後半は中村氏の進行によりデジタルサイネージの現状や課題について意見が交わされた。

中村 ハード面からメーカーの立場で見ると、デジタルサイネージに活路を期待できるか?

村上 ディスプレイは数売ってナンボの世界なので、利益率から見るとあまり関係ないかも。ただ、特殊な物のニーズが出ることでそこから生まれた技術が普及版に降りてくる可能性はある。技術としてはトライしてもらえると良い。

中村 通信業界から見て、ブロードバンドやNGNなどのこれからの展望は?

谷脇 セキュアなネットワークや3.9Gなどが出てくることで、デリバリーチャネルの多様化という意味では期待できる。技術的に可能になっていることをどう活かしていくかが課題。インタラクティブやエリア移動に対応するなど、テレビの置き換えではない、人の流れに連動したようなサイネージが柱になってくるのでは。

中村 現在、ネットワークに接続しているサイネージはまだ1割程度だが?

谷脇 アナログ放送終了後の空いた周波数を何に使うかがテーマ。テレビの周波数は使い勝手が良く、銀座の一等地にスポンと空き地ができるようなもの。これまで法律により放送の電波を通信に使えなかったが、新しい法体系を作ることで可能にしていきたい。ホワイトスペース(地域によって空いている周波数)の解放も、技術的課題を検討する。

中村 コンテンツ面から考えると、広告市場が下がってきているが?

村上 商品の広告はもう戻らないと思う。特定のタレントが出ているからその商品を選んだという人はほとんどいない。商品宣伝にサイネージを使ってくれと言われても、テレビでさえ見られていない。技術と品質だけでマーケットを獲るのはムリになってきている中、どうやって競争力を持っていくかというと、作れば売れた高度成長期には考えてこられなかったブランディングの部分。自社をどう見せたいか、どう見られているか、トータルで考える企業では取り組みが始まっている。そういう流れをキャッチして、企業がどう使いたいかの主体性が生まれることで、次の世代の新しい広告がサイネージに出てくる。

中村 エンターテインメント業界からはどう見ればいいか?

村上 コンテンツビジネスは情報流通コストがゼロに近くなることでパッケージが売れなくなる。ダウンロード販売も単価が低く利益にならない。どこで金にしていくかというと、メディアに乗せてバラまかれる前のところ、加えてその後ろの二次利用・三次利用のところでお金になるモデルなど、トータルで考えないと立脚できない。サイネージに期待することは、入口のライブ感と、その場所にこだわる必要のあるコンテンツでないと意味がないという価値。そういうことを考える人たちも出てきているので、マス向けで広告を打つものと全く別の発想のコンテンツと出会えるようになるのでは。

中村 現在コンテンツになっていない教育、医療、行政などがサイネージを使いこなせば大きな市場になるか?

谷脇 確かに、ブロードバンドインフラを使いこなせていない状況だ。問題はいろいろあるが、医療で言えば患者の医療情報シェアや遠隔医療をやろうとすると法律の規制があるなど、制度の問題が大きい。また、学校では先生が忙しすぎたり、リテラシーが無いなど、利用が進まない複雑な要素がある。意識しないで便利さを実感できる社会が求められているのではないか。

中村 最後に、政府としてのポリシーを聞きたい。経済対策や特区など政府が応援している例があるが、同時にルール作りやコントロールも重要な仕事。今後の競争促進策は?

谷脇 今はマーケットの垣根が無くなってきている。サイネージはその端的な例で、広告主・コンテンツプロバイダ・キャリア・ベンダーなどがアライアンスを結んで初めて一つのものになっていく。この縦方向のアライアンスをどう考えるか、そのときに新しい市場支配力が生まれてこないか、そういった縦方向を念頭に置いた競争政策を考える必要がある。

中村 コンテンツに関するルールの面でいうと、著作権や海賊版対策もあると思うが、これからどう進めていくか?

村上 サイネージを考えるときは、画面だけでなくその前の空間もセットで考えなくてはならない。人の動きにリンクして情報を出せる設計をすると、ITが情報を動かすのではなく人を動かす。そうするとお金も動く。こうした取り組みが、技術的には可能だがいろいろな絡みでできないことが多い。

逆に著作権は法制度そのものの問題でないケースも多いと思っている。それよりは、何をどこまで自由にできるのか、ルールの面でサイネージの前の空間を楽しくするという発想で考えると、未着手のものがまだまだあると思う。