イメージのリフレッシュ
Presentation Serverを利用してデスクトップ/アプリケーションをサーバ側で実行しても、長く使い続けているとWindowsのシステムデータが肥大化するなどの問題は発生する。そこで、富士市で採った対策がProvisioning Serverによるイメージの配信だ。
富士市のシステムは毎日深夜1時過ぎに自動的にリブートされ、Presentation Serverで実行されるデスクトップやアプリケーションのイメージがいったんクリアされる。空になったところにProvisioning Serverからマスター・イメージのコピーが配信され、環境が準備されるのだ。この結果、ユーザーは毎日"新品"のイメージで作業を行うことになり、長期間使い続けることによる"経年劣化"が起こらなくなるというわけだ。
この方法は、運用管理面でも省力化に大きく貢献している。運用管理の対象となるイメージは、デスクトップ用のイメージとアプリケーション用イメージの2種類だけになるからだ。全ユーザーがこの2種類のイメージを使って業務を行っており、個別に環境をカスタマイズしているといった複雑な状況を想定する必要はなくなる。
セキュリティ・アップデートなども配信用のマスター・イメージに対して1回適用するだけで全ユーザーの環境が確実に更新され、セキュリティ・パッチの当て忘れによってセキュリティホールが生じる、といった懸念もなくなる。イメージのリフレッシュは、必ずしも毎日実行しなくても問題ないと思われるが、自動的にリブートするためのスケジュール設定としては、週に一回という指定をするより毎日一定時間にという設定の方が容易だという理由もあるようだ。
運用コストの大幅削減
現在のシステムでは、シンクライアントの同時接続ライセンス数は1,700台分用意されている。1台のPresentation Serverでサポートできるクライアント数はサーバに実装されたメモリ量に依存するが、4GBだとおおよそ30台のクライアントがサポートできるそうだ。運用管理の観点からすると、ローカルに環境を構築したPCを配布するのに比べ、Presentation Serverを導入すれば管理対象となるシステム数を30分の1に減らせることになる。
サーバルームにはブレードサーバがずらりと並ぶ。ストレージはSAN接続のストレージが使われるなど、充分なリソースが確保されているため、Microsoft Officeの起動などは通常のPCでローカルで起動するよりも高速だという。 |
さらに富士市のようにProvisioning Severを併用してイメージを自動配布すれば、Presentation Serverの管理も事実上不要となり、管理対象となるのはマスター・イメージのみということになる。実際、富士市の場合は保守対象となっているのはProvisioning Serverが配布する2種類のイメージのみで済んでいる。
富士市のシステムでは、クライアント1台当たりのコストは月額1万円弱という計算になるそうだ。これはハードウェアやソフトウェアの導入に掛かるリース代などのコストや保守費用などの総計を、リース期間である5年間60か月で割った値だ。クライアントの保守やサポートの費用はほぼゼロに近いところまで抑えられているため、これだけの規模のシステムをたった4名で運用できている点が最大の効果と言えるだろう。
今後の拡張計画としては、ハードウェアの仮想化ソリューションであるXen Serverを導入し、仮想サーバ上でXenApp(Presentation Server)を稼働させることも検討中だという。Xen Motionと組み合わせれば仮想サーバを自由に移動できるので、デスクトップ配信用とアプリケーション配信用のサーバの比率を動的に変更するなど、リソースの最適化がさらに進化するはずだ。
サーバベース・コンピューティングのメリットは広く周知されつつあるが、実際の運用にあたっては細かなノウハウもいろいろあるし、システムの構成が大きく変化することから、なかなか移行に踏み切れないというユーザーも多いだろう。富士市のような先行事例を参考にできれば導入の負担は軽くなる。実際に富士市には全国のさまざまな自治体からの見学が相次いでいるようで、同様のシステムの導入に踏み切る自治体も増えていくだろう。行政のシステム効率が向上することは住民にとってもメリットになるため、まさに有意義なシステム投資となるはずだ。自治体間でノウハウの共有が進み、さらなる効率化が達成されていくことに期待したい。