具体的なIFRS導入のプロジェクトスコープでは、3つのスコープがあるという。「最低限、基準に合った会計処理を行い、財務諸表を出すことを目標とするのがScope1、それを無理せずに維持できる形で素早く出せるようにするのがScope2、IFRSに会計基準が変わることをきっかけとして経営管理・意志決定の変革、企業の価値創造へ向かおうというのがScope3と整理できる。

価値創造という考え方につなげるためには、総勘定元帳の持ち方、SSC(Shared Service Center)とCoE(Center of Excellence)の設置が重要なポイントになるという。

IFRS導入のプロジェクトスコープ (c)2009 Deloitte Touche Tohmatsu. All rights reserved.

デロイトトーマツコンサルティング シニアマネジャー 中村明子氏

総勘定元帳については、連結対象の企業全てがIFRSで記帳することがいろいろな可能性を広げるベースになるという。「まず、スピードが違う。連結決算を四半期で45日以内に開示しなければならないルールはIFRSになっても変わらない。従来手法のデータを集めて親会社で整えるより、最初からIFRSのデータを集める方がスピードもあり、子会社の業績比較もできる」とデロイトトーマツコンサルティング シニアマネジャー 中村明子氏は指摘する。

SSCはオペレーションを集約化、標準化、自動化することで効率的なオペレーションを実現する。CoEはグループ内での会計ルールを定め、更新し、一貫性と透明性を確保する機能を持つ。「直接IFRSのソリューションではないが、IFRSの導入をきっかけとしてグローバルに見直すことができるもの。IFRSをアドプションするということは、毎年変化する基準にも対応しなければならない。これらを設置することでグループ経理の組織のあり方を変えるチャンスが到来している」と中村氏は語る。

総勘定元帳の持ち方 (c)2009 Deloitte Touche Tohmatsu. All rights reserved.

SSCとCoEの設置 (c)2009 Deloitte Touche Tohmatsu. All rights reserved.

導入プロジェクトの進行は、調査・分析、導入、維持・改善という3フェーズに分割される。導入にあたっての影響分析と計画立案が調査・分析フェーズであり、会計方針の決定や課題対応と財務諸表作成や監査のテストを行うのが導入フェーズとなる。最後の維持・改善フェーズには、並行開示が含まれる。

IFRSの財務諸表を初めて開示することになる最初の報告日には、比較財務諸表を含めた2年分の財務諸表を同時に出さなければならない。そのため、移行日は報告日の2年前の期首となるのだ。つまり、報告日の2年前には全ての準備が終わっている必要があり、移行日からの1年分は並行開示期間として2つの基準による開示ができる体制を企業がもっていなければならない。

このため、実際に日本で対応した企業が出てくるのは2015年頃だろうとされている。「何年かかるのかということには諸説あるが、普通の企業ならば移行日までに3年あれば安心してかかれると思う」(中村氏)

IFRS導入プロジェクトの一般的な進行 (c)2009 Deloitte Touche Tohmatsu. All rights reserved.

2013年度から早期適用する場合のロードマップの一例 (c)2009 Deloitte Touche Tohmatsu. All rights reserved.

「会計以外の領域にも幅広くプロジェクトが関わるため、プロジェクトマネジメントが重要になる。プロジェクト体制は関連部門を巻き込み、主体性を持たせた体制を整備することが肝要」と中村氏は全社的な取り組みになることを指摘した。

IFRS導入プロジェクトの領域 (c)2009 Deloitte Touche Tohmatsu. All rights reserved.

プロジェクト体制 (c)2009 Deloitte Touche Tohmatsu. All rights reserved.

情報システムへの影響としては、主要4領域に影響があると考えられる。業務システム、一般会計および勘定科目マスタ元帳/台帳、連結およびデータウェアハウス、レポーティング機能だ。

導入にあたっては、複数会計基準への対応方法を選別したり、IFRS基準とローカル基準の財務報告書を作成するにあたって、各社が作成するのか、グループ単位にするのかといったIFRS化する組織レベルの決定も必要になる。また、レポーティングの影響範囲がどこまで及ぶのか、J-SOX等の法規制用件とIFRSをどのように整合するのかも検討しなければならない。さらに2年以上かかる持続可能だが長期的なソリューションを選択するのか、約1.5年程度で応急対応する短期ソリューションを選択するのかという問題もある。欧州での先行事例から教訓を得て、企業は早い段階から取り組みを開始しなければならなそうだ。

欧州先行事例からの教訓 (c)2009 Deloitte Touche Tohmatsu. All rights reserved.

今後「IFRSパートナーコンソーシアムセミナーシリーズ」として毎月セミナーの開催が予定されており、パートナー各社からの情報提供が行われる。