Qt Softwareは、4.5と同時に、クロスプラットフォームのIDE「Qt Creator」をリリースしている。Qt開発向けに機能を限定、軽量/高速を特徴とする開発環境で、Mac/Linux/Windowsで使える。Qt Creator、Qtライブラリ、開発ツールとあわせて「Qt SDK」として提供、「ダウンロードすると、すぐにQtベースの開発をはじめられる環境が整った」という。これまで開発者はEclipseなどのIDEとの統合機能を利用していたが、高速に開発したい、IDEもクロスプラットフォームで利用したい、Qtで一本化したい、などのニーズに応じる。だからといって、既存のIDEと競合するものとは位置づけていないようで、「Qtで使えるIDEが増えたという補完的なもの」と佐相氏は説明する。

Qtは、4.4でWebKitを統合し、Webアプリとネイティブアプリを融合した。Qt Creatorはこの流れに沿うものとなる。佐相氏はこれを「Qt Everywhere」と表現する。

Qt Everywhereは、端末とユーザーの2つの面でQtを普及させるという新戦略だ。端末側はクロスプラットフォーム対応を強化し、NokiaのSymbian向けUI「S60」へのポーティングなど、拡大を図る。ロードマップには、「Microsoft Windows 7」の文字もある。

そのための機能強化として、2010年初めにリリースを予定している4.6では、ユーザーエクスペリエンスが大きなフォーカスになるという。アニメーションなどの「動き」に対応し、「かっこいいものになる」と佐相氏。マルチタッチ/ジェスチャー、「Declarative UI」と呼ばれる新しいレイアウト技術などが盛り込まれる予定のようだ。「ユーザーにとっては、ソフトウェアがサーバで動くのか、クライアントで動くのかは関係ない。かっこいいアプリが高性能に動くことが大切」と佐相氏、「この部分をQt一本で提供できるようにしていくのがビジョン」と続ける。

ユーザー数では、「3年後に10倍」が目標。現在、Qtを利用する企業は5,500社を数え、ユーザー数は25万人と推定しているが、これを2011年には250万人に拡大する。

その目標を実現するにあたって、QtはLGPLオプションを追加した。「LGPLは、商用開発でも無償で使えるライセンス。LGPLが加わることにより、Qtを使った商用プロジェクトが増えると期待している」と佐相氏。収益の点から見ると、商用ライセンスの減少につながるのは不可避だが、ユーザー数の拡大を重視する。「(LGPL提供は)以前からやりたかったが、(Trolltech時代は)収支を合わせる必要があった」と佐相氏、これはNokiaが母体となったことのメリットという。

ユーザー数が増加することは、エコシステムの拡大→フィードバックや貢献の増加→高速な開発、品質改善→新しいユーザー、という好循環を生み出す。実際、LGPLオプション提供を開始して1カ月半でダウンロードは大幅に増えたと佐相氏、「LGPLは正解だった」という。

さらなる取り組みとして、5月11日には、ソースコードのレポジトリとロードマップ情報を公開、コミュニティがQtの開発に参加できるようになった。

このようなQt Everywhereにより、「UIやアプリ開発のデファクトスタンダードのフレームワークを目指す」と佐相氏。

時代はクラウドに向かいつつあり、クロスプラットフォーム・アプリにフォーカスがあたっている。「われわれは、15年前から、インターネット、モバイル、デスクトップが融合されるというビジョンを抱いていた」と自信を見せる。

なお、Nokiaにおける戦略としては、S60、「Maemo」(Nokiaのインターネットタブレットが利用するLinuxベースのプラットフォーム)に対応、同社のインターネットサービス「Ovi」をQtベースにするなど、コアの技術としてQtが利用されているという。「S40」対応については検討中という。

「Maemo」上で動くアドオンのアニメーションAPI(端末は「Nokia N810」)

開発が進められている3D機能のデモ。OpenGLが動く環境であれば動くという

Qtベースのウィジェット

日本のパートナーであるSRAは、自社開発の日本語入力環境「Qinput」を披露していた