創ることで、何かを壊していきたい

――長添さんはどういうきっかけで、プロの映像クリエイターになったのでしょうか?

長添「ディレクターになったきっかけはBOOM BOOM SATELLITESの『kick it out』のPVなんです。僕はteevee graphicsっていう会社にいて、ずっとアシスタントで下積みをしてたんです。で、そうしてると、映像ディレクターにどうやったらなれるのかっていうのは、なかなかわからないものなんですよ。不意にチャンスが回って来る場合もあるし、もしかしたら自分の名刺にディレクターと書いてしまえば、それだけの事だったかもしれないし……。業界に入って4年くらいやっていたんですが、結構不安な状態で自分がディレクターになるビジョンがあまり浮かばなかったんです。これが一生続くのかなという気持ちでいて、そんなときにコンペでディレクターを選出するという企画があったんです。そこで企画を、BOOM BOOM SATELLITESのふたりに選んでもらって、やらせてもらえたって感じですね。そこからは、ずっとディレクターでやらせてもらってますね」

――長添さんはPVを多く手がけられていますが、もともと音楽の映像仕事をやっていきたいという感じだったんですか?

長添「音楽が好きというのはありますけど、そういうわけではないですね。ただ、ロックな感じというのは意識してます。これは音楽のジャンルの話じゃなくて、とにかくクリエイティブな事で、何かを壊したいという意識があります。最初は映像じゃなくて絵だったんですけど、絵でも何でも先人がやってきたことを壊したいという欲求が、僕は凄く強いんです。PVはそれをやるには凄くいい土俵だなと思っています」

――音的にも立ち位置でも、日本の音楽シーンの中でも、先鋭的というかオルタナティブな感じのアーティストの作品を多く手掛けられているという印象があるのですが、そこは、ご自身の中で選択してる部分もあったりするんですか?

長添「それはもちろんあります。依頼を全部受けるわけでもないし、受けるなら興味のある方を受けていますし」

――作品を創る際に、「ここだけは譲らない」という部分はありますか?

長添「結構、毎回そのポイントが違うんですよね。僕は色だけは譲らないディレクターですというわけでもないですし。ただ譲らない部分があるとしたら、『前と同じのを作ってくれ』とか、『誰々っぽいのをやってくれ』とかっていうのはやりたくないという部分ですね。だから、作風に統一感はないんですけど、何か壊したいっていう気持ちで作るという部分は常に統一してます」

――PV以外には、どんな映像を手がけてみたいのでしょうか?

長添「映画をいつかやってみたいっていうのはあるのですが、アニメも作ってみたいですね。もっと先の話だと、どんどんテクノロジーが進化したら、映像の形も変わると思うんです。現在の映像表現は16:9のモニター枠の中で表現することを強要されていますけど、それがなくなった瞬間に、真っ先に何か新しい映像を創らせて欲しいという気持ちはありますね。例えば、空に映像を映せたらいいなって思うので、そういうシステムを開発した人がいたら、なんか作らせてくださいと。一番乗りでやりたいなと思いますね」

――長添さんは、出力の形態によって、創るものも違ってくるような感じなんですか?

長添「そうですね。でも根本は変わらないつもりだから、何でもいいんです。映像だけで一生食っていくつもりもないですか」

――もし、アニメ作品を創るとしたら、どんな感じの作品になるのでしょうか?

長添「セル画じゃないですけど、Flashでは作らないですね。ちょっと違うかなと思っちゃう。でも、Flashで作って今までの日本のアニメを壊すことが出来るなら、それはやる価値があると思います。ビジュアルの表層部分じゃなくて、なんかそのアニメ作品自体にアニメを壊すようなスピリッツがあれば、どんな手法でもいいと思います」

――最後に、長添さんのような映像クリエイターを目指す読者にひと言お願いします。

長添「今は誰でも創れる時代になってるから、面白いと思ったら作品を創るほうがいいと思います。別にプロだからって特別なツールを使ってるわけじゃないですから。土俵は同じです。僕は学生のとき、プロの人はボタン1個で凄い作品を創るんだろうなとか想像していたのですが、結局プロを見たらみんな徹夜して、チマチマチマチマと作ってるんです。だから大学生と変わらないんですよ。発表の場さえあれば、創った者の勝ちじゃないかと思うんです。で、アイディアがさらに面白ければ、いくらプロの作品が綺麗で美しくても、俺はそっちの方がいいんじゃないかなと思うから、皆さんもどんどん作ってください」

長添氏の手掛けた作品はこちら

撮影:石井健