ネットブックの登場がPC業界にもたらしたもの

ネットブック向けWindows XPの存在がMicrosoftにどれだけの影響を与えているかは不明だが、筆者の予想ではまだそれほど大きなインパクトにはなっていないと考えている。なぜなら、急拡大しているとはいえネットブック自体の市場はまだそこまで大きくないからだ。

とはいえ、依然として2つの点で今後も取り扱いに細心の注意を払わなければならない。1つはネットブックの盛り上がりがそれ以外の製品の売上の減少に結びつくこと、そしてもう1つが潜在的なライバルとなるLinux陣営の存在だ。

もともとネットブックはLinuxとセットで登場してきたことからもわかるように、非力でそれほど機能も豊富ではないが、安価で手軽に購入して扱えることをメリットとしてきた。だがWindows XPを搭載したことで通常のPCと同じ使い方が可能となり、ユーザーは逆に高性能なネットブックを求めるようになった。価格レンジが当初の300ドル程度の水準から、一気に500-700ドル近くにまで跳ね上がったことからもみてとれる。

確かに通常のPCと同じ使い方をしている限り、ネットブックの当初のコンセプトとは相容れないだろう。もしこれがMicrosoftの描いたシナリオ通りの展開であるならば、ユーザーを従来のネットブックから引き離すことに成功しつつあるともいえる。

またIntelが15日に発表した2009年第1四半期(1-3月期)決算においてAtomの売上が前期比27%減少したと報告したが、ASPが変化していないことを考えれば純粋に販売数が低迷して在庫が積み上がりつつあることを意味する。ネットブック市場がすでに頭打ちに入っている可能性もあるのだ。

こうしたネットブック市場に対してMicrosoftが打ち出した次の手が、Windows 7のリリースとOffice 2007 Personalのネットブック向け低価格提供となる。現在同社の主力はWindows Vistaだが、主にグラフィック機能の貧弱さとメモリ不足が理由で最下位エディションのHome Basicでさえもネットブックで動作させるのはかなり厳しい。より少ないリソースで動作する前世代のXPを安価に提供するのは、高機能製品はVista、低価格ネットブックは収益に大きく影響を与えない範囲でXPと切り分ける意味がある。もちろん、ネットブックをきっかけにLinuxなどのライバルに市場を切り崩されるのを防ぐ狙いもあるだろう。Office 2007の低価格提供も同様で、オープンソースのOffice製品であるOpenOffice.orgへの牽制と考えるのが自然だ。

MicrosoftはWindows 7のリリースにあたり、6つのエディション構成での提供を打ち出している。注目は3つの下位エディションで、Starterがネットブック向け、Home Basicが途上国向け、Home Premiumがコンシューマ向けという位置付けだ。

Starterはもともと海賊版対策に頭を悩ませるMicrosoftが大幅な機能制限つきでWindows XPの提供を始めたことに端を発しており、これをそのままネットブック用として置き換えたのがWindows 7のStarter Editionとなる。同時起動アプリケーション数が3つ、Aero非対応という制限はそのまま引き継がれるとみられ、これに不満を持つユーザーには追加料金の支払いでHome Premiumへのアップグレードが提供されるという形態をとる。

Windows Vistaでの反省から、Microsoftはネットブックのような貧弱な環境でもある程度動作するようにWindows 7のチューニングを行っており、すべての製品ラインを一系統のOSで統一することを目標にしている。