――それでも続けてきた理由は?
近藤氏 新聞を別のプラットフォームでも楽しんでもらいたい、という思いですね。新聞って、業界で言うと100年以上の歴史があって、パッケージメディアとしてはひとつの完成された形だと思います。新聞には、中身と見た目それぞれに機能があるじゃないですか。記事の信頼性やわかりやすさ以外にも、(紙面を)ぱっと見て「このニュースはでかいね」「この見出しが一番伝えたいことなのかな」と、その日に起きたことをポータルのように幅広くわかりやすく伝える――新聞のレイアウトにはそういう機能があります。ですから、ニュースをわかりやすく伝えるための手段という部分もぜひ利用してほしい。レイアウトは新聞の大きな価値であり機能なのです。それを、紙とは違う形態で楽しんでもらえないかな、と。
――"レイアウトの価値"はうまく伝えられましたか?
近藤氏 世の中に言う電子新聞って完成された形はないんですけど、レイアウトを(NetViewのように)こういう形で見てもらうのはひとつの道で、産経新聞はそこに可能性を感じてきたわけです。ただ、PCでやったときは大きな反応は得られなかった。もちろん、高く評価してくれる一定層もいましたが。
――長らくPC向けに「電子新聞」を見せる努力をしてきた産経新聞にとって、iPhoneはどのように捉えていますか?
近藤氏 PC以外のところ、携帯端末に参入できないかとはずっと思っていました。いろいろと試してはみたのですが、画面は小さいし、使いづらかった。そこに、iPhoneが出てきた。UIはすばらしく、マウスで操作していたものが指でできるということで、(iPhone版を提供すれば)喜んでもらえる可能性はあるかなと感じました。
そこで、(2008年)9月くらいにYappa(産経新聞iPhone版の開発会社)と試作版を作ってみたら、これってユーザーに楽しんでもらえる形になるかもね、と。画面は小さくて、3段階で紙面の大きさを変更するのですが、やってみるとけっこう読めるわけです。「iPhone、すごいな!」って。本当に通用するかどうか、実際に使っている人たちに評価を聞いてみたいということになり、今回のリリースとなりました。
――iPhoneのユーザー像をどのように捉えていますか?
近藤氏 産経新聞iPhone版は、あるていどiPhoneユーザーのライフスタイルにマッチしているとは想定していました。iPhoneユーザーは、「情報感度が高い人」「比較的若い人」「あまり新聞を読まない人」というざっくりとした想定ですね。
私たちは、「新聞を読んでいない情報感度の高い人」とも仲良くなりたいのです。まさにそれがiPhoneユーザーなのかもしれない。そういう人たちに、小出しにして紙面を見てもらうのではなく、全部を無料で見てもらって感想をもらいたい! って考えました。PCでは盛り上がらなかったものが、新たなデバイス(iPhone)に対応することで、ニーズやライフスタイルに合ったものになればうれしいな、と。
――実際にユーザーからの反響はいかがでしたか?
近藤氏 サービスインしていきなり休刊日だったので、「なんで配信されない」「もうダメになったか」という声はありましたね。でも、他のユーザーさんがフォローしてくれてありがたかった。私たちとしては、そういう方にこそ読んでもらいたいし、「スポーツ紙なら読みます」くらいの感覚の人にも、こういうレイアウトの商品に興味を持ってもらえたらうれしい。
紙の編集方式は長い歴史の中で培われてきたもので、優れたノウハウがたくさん詰め込まれているんです。そうした価値をそのままに、(iPhoneのようなデバイスで)使い勝手よく提供できるのであれば、(新聞のレイアウトは)再評価されるべきものなのではないかと思います。
――新聞購読者から批判的な意見はありませんでしたか?
近藤氏 実際にそういった声を寄せられる方もいらっしゃいますが、あくまでも私たちは「試読していただいている」と説明しています。紙の新聞を購読してもらうためにも中身がわからないといけないので、とりあえず読んでください、と。これをとりあえずiPhoneユーザーに試してもらい、マーケティングを行なっている状況です。
――ところで、iPhone向けの紙面データについて教えていただけますか?
近藤氏 iPhone向けに配信しているデータは、「NetView」のものと同じです。東京最終版の版下データを使い、ページごとに3段階の画像データとして配信しています。全体が見える画像が1枚、2段階目のズームではページの4分割データ、3段階目は16分割のデータです。全データでトータル40MBくらいですね。もっときれいに見せることはできますが、相当なデータ量になってしまいます。このくらいならWi-Fi環境で3分ほど放置しておけばダウンロードできますが、3Gではきびしいため、データ量の圧縮を検討しています。ちなみに、「NetView」では1カ月分のバックナンバーを見られますが、iPhone版ではその日の新聞だけをご覧いただくという形にしています。