皆さんはAdobeという名前を聞いて何を想像するだろうか。PhotoshopやIllustratorなどのデザイン製品で知られる同社だが、Macromediaの買収を経てWebデザインや開発ツールを吸収している。Flash / Flexに続き、Webブラウザの枠を打ち破ったAIR、そしてデザインツールとコーディングの中間にあたる開発ソリューションを提供するCatalystなど、同社はプラットフォームベンダとしての性格を強めつつある。今回、米Adobe systemsのデベロッパーツールズ担当バイスプレジデントのDave Story氏にインタビューを行い、これら最新のツール群を利用した同社のプラットフォーム戦略について話をうかがった。
--Adobe Catalystはデザイナーとデベロッパのギャップを埋める製品を標榜しているが、どちらかといえばデザイナー寄りの製品なのか?
その通りだ。これまでPhotoshopやIllustratorなどのツールに慣れ親しんでいたデザイナーが、Catalystを通してアイデアを表現し、デベロッパとコミュニケーションすることができるようになる。Catalystでは2つのブレイクスルーを提供する。1つはCatalystを使うことでデザイナー自身がプログラム言語のようなコードを生成することが可能になり、しかもいっさいの情報の損失なしでデベロッパへとデータを受け渡せる。プロジェクトには一貫性があり、Flex Builder上でそのままデータを開くことができ、ここでデータを破壊されることもない。こうした作業をデベロッパとの相談なしで進められることも魅力だろう。一方でデベロッパとよりインタラクティブにプロジェクトを進められ、これまで難しかった細かなアニメーション動作の表現が容易になったことも大きい。いままでであれば手書きメモで説明したり、パラパラ漫画のように図を用意して説明しなければならなかったからだ。
--Catalystがデザイナー向けの製品ということはわかったが、一方でデベロッパ向けのメリットは?
先ほど申し上げたデザイナー向けのメリットがそのままデベロッパに当てはまる。デベロッパにはデザイナーのような表現力はなく、両者の仕事があって初めてプロジェクトが成り立つ。ところが従来のスタイルでは、PhotoshopなりIllustratorなりのファイルをデザイナーから受け取る段階で、デベロッパがそれらデータからデザイナーが何を求めているかをいちいち解釈しなければならなかった。Catalystがあれば、こうしたデザイナーが用意したネイティブフォーマットの状態でそのままその意図を理解できる。それらはデベロッパーが理解できる(IDEなどの)ツールであると同時に、Creative Suiteのデータやアニメーション要素なども理解できるツールとなる。こうした変換作業の際に失われるデータはない。
--CatalystのMac版プレビューが米サンフランシスコで開催されたAdobe MAX 2008で配布されたが、現時点の開発はどこまで進行しているのか? またWindows版は?
今回のMAX JapanではCatalystとFlex Builder(開発コード名: Gumbo)のプレビュー版を提供している。意図としては、そこからデザイナーらのフィードバックを得て最終的な製品へと仕上げたいと考えている。Windows版についても内部的にはすでにできているが、一般的なお披露目にはまだ数カ月はかかるだろう。
2008年11月にサンフランシスコで開催されたAdobe MAX 2008でのCatalystのデモンストレーション。IllustratorやPhotoshopで作成したデータに、プログラミングの知識がないデザイナーでもインタラクティブ性を加えることができる |
--現時点でどのようなフィードバックがデザイナーやデベロッパから得られている?
「こういうことができます」と説明すると「本当にできるのか?」という疑問が返ってくるが、実際に利用した人々はその実際の動作に驚いているようだ。「We want this for yesterday! (昨日の時点で使えたらよかったのに!)」というコメントがあるが、まさに意図していた感触で満足している。そのほか、細かい機能が揃っている点にも満足をいただいているようだ。あとは先ほども指摘されたWindowsに対する要求がある。
Catalystで重要なのは、データの変換に関してもそうだが、そうした受け渡し作業を経ることで元々あったビジョンみたいなものも失われてしまう。これはデザイナーとデベロッパの間だけでなく、顧客からデザイナーに要求が渡される段階ですでに発生しているものだ。こうした問題を解決するために、例えばデザイナーがCatalystを使って顧客に対するデモストレーションや説明を行うことも考えられる。Catalystをコミュニケーションツールとして使うことで、両者のギャップを埋められる。こうしたツールが登場したことで、Adobeの(デザイナーを支援するという)ビジョンに豊かさが加わった。仮にドラフトやスケッチレベルの内容であっても、デザイナーがデモストレーションに利用できる。顧客にも「あぁ、このプロジェクトはまだ開発途中なんだな」という意図が伝わるだろう。