省庁間の相互運用性は今後の課題

GtoGでは、省庁や自治体など機関間のやりとりの電子化を目指し、システムの相互運用性実現を目指している。他の政府機関が理解できるフォーマットの利用を奨励、ドキュメントでは、OpenDocument Format(ODF)や「Adobe PDF」など、オープンな標準でプロプライエタリではない仕様を利用することを推奨している。だが、政府のサイトではいまだにMicrosoft形式が多く、移行に時間がかかるとHansson氏は見る。

調達も同様で、支払いを含むすべてのプロセスを電子化していく。具体的には、企業と政府が利用する共通の仕様の開発を進めていくことになる。これにより、「コストの削減、透明性という電子化のメリットを最大化する」とHansson氏。現在、相互運用性の到達度は70点と評価する。

ICTスキルは教育でも戦略

政府は、行政のオンライン化を進めると同時に、国民にサービスの利用を進めるため、さまざまな奨励策を敷いている。eTaxの場合、還付を早くするなどだ。図書館には100%に近いレベルでインターネットに接続されたPCが設置されており、登録者は無料で利用できる。高齢者に対しても、高齢者向けの機関がオンラインやPCの利用を進めるプログラムを展開している。

教育も重要だ。スウェーデンではICTスキルの教育を早くから重視している。「ICTスキルを身につけることは、教育計画の一部になっている」とHansson氏は説明する。ICTスキルにより国民のレベルを引き上げることは、知的国家を下支えする重要な対策だ。それにより、外国企業の誘致も図れる。もちろん、教員を目指す学生はすべてICTスキルを要求されるという。

インターネット社会の課題

デジタル時代の政府とはなんだろうか? 「デジタル時代だからといって、政府の役割は変わらない。手段が変わるだけ」とHansson氏は語る。コスト、効率、スピードなどのメリットはもちろんのこと、「インターネットやITは民主化、参加という意味で強力なツールだ。政府は人的リソースを効果的に配分し、本業にフォーカスできる」と続ける。

だが、インターネットは良い面だけではない。Hansson氏はうなずきながら、政府側の課題として、セキュリティとプライバシー、それにインテグリティ(統合性)を挙げる。

たとえば、ストックホルムでは通行税がある。ストックホルムを通る自動車はゲート通過時、自動的に税が課金される。このデータは当初の目的以外にも使えるだろう。犯罪人の追跡ならばよいが、失業手当をもらっている人が定期的に同じ場所を通過しているとわかった担当者が、本当は仕事をしているのではないかと疑うかもしれない。「IT化により、われわれは常に電子的なフットプリント(足跡)を残していることになる。容易にモニタリングできてしまうので、使い方を誤ると、監視社会を描いたジョージ・オーウェルの『1986』になりかねない」とHansson氏。

これを避けるには、「最初の目的をクリアにすること」とHansson氏は言う。「明確な目標設定とビジョンが必要。フォーカスがぼやけて、枝葉が多くなることは危険だ」と強調する。

だが、より根本的な問題は、「インターネットだから起こる」という考え方のようだ。「インターネットは現実世界、社会をうつす鏡に過ぎない」とHansson氏。犯罪やいじめ、攻撃は、現実世界でもネットでも起こりうる。言い換えれば、現実の世界に芽がないことは、サイバー世界には起こらない。問題となるサイトやサービスを単純に閉鎖することが解決策ではないとHansson氏は考える。

「インターネットは生活の一部となった。インターネット利用を制限するのではなく、現実世界の改善や教育活動と並行して、サイトで何が起こっているのかを追跡していくしかないのではないか」とHansson氏は言う。

スウェーデンの首都・ストックホルム。複数の島から成り立ち、北欧のベニスといわれる