米国の覇権が揺らぐ可能性も
業界の観測筋は、中長期的には、米国の金融危機が中国IT市場の競争を一段と激化させると見ている。なぜなら、米国市場で挫折したITメーカーが、短期間の調整をおこなった後、業務の中心を中国などの新興市場へ移す可能性があり、そうなるとコア競争力で劣る中国メーカーが、たちまち「生存の危機」に直面してしまうからだ。
空前の試練とチャンスが共にやってきそうな今、中国のIT企業は、自らの事業を整理し、本当の実力をつける必要に迫られている。前述のとおり、うまくいけば、世界的なIT業界の再編を経て、地道な努力を積み重ねた中国のIT業界から次代の盟主が生まれるかもしれない。
今回の危機が1929年の世界恐慌にも匹敵する「歴史的危機」となった場合、当然のことながら最も大きな損害を受けるのは米国だ。うまく対応できないと、これまでの米国の覇権が揺るがされるか、取って代わられる恐れすらある。その場合、新たな経済大国、例えば、中国が新たな軸としてより一層台頭するかもしれない。この過程は非常に長い道のりかもしれないが、少なくとも中国がこれにより利益を得ることは明白で、IT業界も新たな発展の局面を迎えられるかもしれない。
携帯業界で激化する低価格競争
金融危機が全世界を席巻し、世界経済が厳冬期を迎えるなかで、中国では各分野の輸出企業が次々に倒産している。また、株価や不動産価格の暴落により、一般消費者の資産が容赦なく削り取られている。
リーマン・ブラザーズの破綻は危機の始まりであり、世界経済はそれ以降冷え込続けている。中国市場で最も活発で、最も競争が激しい携帯電話業界でも新たな現象が見られるようになるはずだ。通信最大手の中国電信(チャイナテレコム)の大掛かりなCDMA入札という大口発注で活気を取り戻しつつあった中国の携帯電話市場に、新たな波瀾が巻き起こされるのではないかと懸念が広がった。
そんな中、政府に認定されていない闇携帯電話である「山寨機」の低価格攻勢に対抗するため、ノキアが率先して価格競争に加入し、製品価格を10%引き下げた。モトローラもその後これにならい、ノキアと山寨機の低価格戦略に割って入った。
「模倣、コピー、低価格」の三点セットで伸びた山寨機だが、いまや安売り競争の中で致命的な打撃を受け、海外からの受注で辛うじて延命を図っている状態だ。最近は多くの山寨機メーカーが、生き残りのため、家電業界などへと「転業」し始めている。
金融危機による海外からの受注減少が大幅な輸出減に繋がったわけだが、山寨機メーカーにとっては、まさに金づるを断ち切られたも同然だった。コア技術と卓越したデザイン力を保持するノキア、モトローラ、サムスンなど強力な海外軍団が、中国の携帯電話市場で、模倣とコピー、低価格に頼る中国国産ブランド、そして烏合の衆である山寨機メーカーに仕掛けた価格戦争。勝負の行方は、戦う前から明らかであった。