重要思考で挑め - K.I.T.三谷宏治氏
休憩を挟んでの第三部では、K.I.T.虎ノ門大学院の教授の三谷宏治氏が登壇し、「重要思考 - SEからコンサルタントへ」と題して講演。三谷氏は、ボストンコンサルティンググループやアクセンチュアで経営戦略コンサルタントとして国内外数十社のプロジェクトに携わってきた自身の経験を踏まえ、経営の視点でのビジネス戦略の発想法を聴衆に問いかけながら実践的にアドバイスした。
K.I.T.虎ノ門大学院 教授 三谷宏治氏 |
同氏はまず、IT業界の特徴として、技術の進歩が速く、取り扱う範囲が広いという難しさがあると指摘。「このことは、速さについていくという点で若者にとって有利である反面、放っておくと、技術寄りになり、たこつぼ化するおそれも併せ持っている。また、発想法としても、決まったことを進めるだけのトップダウン思考に陥りがちな面がある」という。
そんな中だからこそ、エンジニアは、「キャリアチェンジを常に意識し、コンサルタントとしてのスキルを身につけていくことが重要だ」とする。三谷氏によると、コンサルタントの語源をたどると、共に座る者といった意味となるという。
「企業にとってコンサルタントとは、企業のよりよき意思決定をアドバイスし、その実行を支援する者ということ。例えば、ITコンサルタントは、システムの構築フェーズにおいて、アーキテクチャの決定、開発体制の構築、進捗管理体制の構築、要件と予算・納期とのトレードオフの提示という4つを担っていく。これが、ITコンサルタントにとっての"勝負所"となる」
同氏によると、特にこうした上流行程が難しいのは、やりたいこととできることのギャップが見えにくいという事情がある。例えば、経営者にとっては「10年後を見据えることは難しい」ことが常識になっていても、システム開発の現場では「10年動くシステムを作る」ことが求められたりする。また、ある機能を実装しないと売上げにどのくらい影響がでるか、実現するシステムによってROIが何倍になるかといったトレードオフも示しにくい。
では、そうした勝負所を攻めきるためには、どういったスキルが必要になるのか。三谷氏は、その1つとして「重要思考」を上げる。重要思考とは、最も大切なことを決定し、そこを中心に、戦略、効用、施策という3階層で意思決定を行っていく思考法のこと。セミナーでは、この思考法について、K.I.T.虎ノ門大学院で実際に行われている例題を参加者に投げかけるスタイルで解説した。
三谷氏が出した例題は、「トヨタ自動車をもっと強くする戦略とは何か」。ヒントとして、同社が売上げ(台数)世界一、時価総額世界一であることを説明し、「重要思考では『重要』なところで『継続的な』差があるかどうかに注目する」ということのみを伝えた。参加者は自身の考えを3分間でまとめ、さらに3分間で隣どうしでディスカッションを行った。
三谷氏は、「中国で勝負する、安い車でインドで勝負するなどいろいろ考えたと思うが」としながら、この場合のポイントは「ナンバー1であることを強みとして、なるべく大きな土俵で勝負すること」と説明。具体的には、スケール・メリットを出すために、固定費的な研究開発費や広告宣伝費などに注目し、継続的な差別化を図ることが適した戦略になるとした。そして、これをさらに重要思考で掘り下げていくと、安全への広告投資(同社の安全性評価GOAなど)、燃費へのR&D投資(ハイブリッド車、燃料電池車など)、インフラ投資(ITSなど)が具体的な施策になる。
セミナーでは、このほかにも、ガソリン税導入を報じる大手新聞の論調の読み解き方や、自動車メーカーがCRM戦略の1つとしてシッョピング・センターを設置することの意義などについての例題も示された。
最後に、三谷氏は、「キャリアチェンジの壁が厚いことは確かだ。だが、IT業界が若者にとって有利であるように、コンサルタントへのキャリアチェンジにおいても、未経験であることが有利な条件となる場合もある。コンサルタントに求められるのは、経験よりも、戦略的な発想がいかにできるかだからだ」と強調。キャリアチェンジの壁を越えるためにも、日々の業務のなかで重要なことは何かを考え続けたり、その技術をビジネス・スクールなどを利用して具体的に習得することをすすめた。