11月8日、東京・竹橋パレスサイドビルにて、毎日コミュニケーションズとK.I.T.虎ノ門大学院が共催する特別セミナー『キャリアチェンジ特別セミナー ~IT領域からビジネス領域への挑戦~』が開かれた。ITエンジニアからコンサルタントへの転職をテーマとした同セミナーには、若手エンジニアを中心に約100名が参加。エンジニアとして培った経験を生かしながら自身の付加価値を飛躍的に高める方法について、3人の講師のアドバイスに熱心に耳を傾けた。
アーキテクトとしての付加価値を高めよ - 豆蔵 山岸氏
豆蔵 代表取締役社長 山岸耕ニ氏 |
第一部の講師は、豆蔵で代表取締役社長を務める山岸耕ニ氏。山岸氏は「ITを武器にビジネス領域に切り込む - 要求開発のすすめ」と題する講演を行い、「要求開発」の視点から、システム開発が抱えている課題や将来像、エンジニアの目指すべき姿について提言した。
要求開発とは、「要求はビジネス価値に基づいて"開発"されるべきもの」という理念のもと、業務の全体像を把握し、システムを最適化していくための実践的なアプローチ。山岸氏は、オブジェクト指向技術を中心としたシステム開発やコンサルティングに携わるかたわら、「要求開発アライアンス」の理事として、新しい開発スタイルの提案やITエンジニアの意識向上を積極的に提言している人物だ。
同氏は、まず、今日のITシステムと業務の現状について、「人間系とIT系が複雑にからみあい、サイボーグ化している」と指摘。「分かりやすい例では、ハンバーガー・ショップがある。顧客から注文を受けて、ハンバーガーを提供するまでに、接客、注文処理、在庫確認、商品提供など、人とITが渾然一体となった1つの大きなシステムを構成している」と語った。
これは、システム開発という視点で見ると、「ITはサブシステムとして、大きなシステムを支えている存在」となる。こうしたなかでは、システムを個別に設計しているだけでは最適化を図ることができず、全体構造を設計したあと、サブシステムとしてのITを設計していくという発想が求められることになる。つまり、「一段上のシステムに視点を上げ、付加価値を出していくことが、システム設計の現場においても、エンジニアの姿勢としても求められる」ということだ。
その具体的な方法論となるのが要求開発である。山岸氏は、これまでのシステム開発のやり方を「ヒアリング&とりまとめアプローチ」と呼び、担当者個人の限られた視野で、その場かぎりのロジックに基づいて設計された結果、「作っても使われないシステム」が多く作られることになってしまったとする。
これに対し、要求開発では、業務領域にソフトウェア工学の手法を適用することで、ゴール、業務、システム、プロセスを見える化することを目指す。実際には、プロジェクト・メーキングにはじまり、ビジネス・ユースケース作成、業務フロー作成、概念モデリング、システム・ユースケース作成、分析モデル作成、非機能要件抽出などといった流れとなる。
セミナーでは、このうち、プロジェクト・メーキングの実践例として、ステークホルダー・リスト(利害関係者が納得ずくでプロジェクトを開始・進展させるためのリスト)、要求体系図(要求の全体構造を一望するための図)、ゴール記述(要求体系図から具体的な数値目標を導き出すための表)の作成方法を解説した。
そのうえで、山岸氏は、これからのエンジニアに求められる資質の1つとしてアーキテクトを挙げながら、「ITエンジニアは、抽象化、構造化というきわめて高度なプロフェショナリティを備えているもの。ITで培ったエンジニアリング・アプローチを業務の世界に持ち込むことで、違うビューを見せられることがITエンジニアの付加価値となる」と語った。