撮影の状況に合わせて、CGで天気を変えるような作業もある
――今、ドラマでも、いわゆる特撮シーンのない作品でも、CGは必要になっています。『ハンサム★スーツ』では、あからさまな特撮シーンだけでなく、背景の着色もやっていますよね? そういう、映画の世界観に合った自然な画を作るために必要なCGと、いわゆる特撮のためのCG。その両者に違いはありますか?
小坂「特にいわゆるCG。宇宙船とか、怪獣とか、そういう物とは別に、自然なCGというものが近年増えています。例えば冬だけど桜が咲いてる場面を撮りたいとか、枯れ木だけど夏にしたいとか、そういうときはもう完全に風景をCGで描くのですが、絶対にバレてはいけないというか、リアルを追求していかなければならないんです。あとは美術的な予算の都合で、セットをすべてCGで描き起すというのも、最近増えています。『ハンサム★スーツ』の場合は、ビジュアルディレクターの飯田かずなさんの世界観や、英勉監督の世界観をCGでより広げるための作業をしていたんです。特に注意することは、現実のドラマ、しかも現代なので、露骨に合成っぽくしてはいけない、CGっぽくしてはいけないという部分でした」
――ハンサムスーツを着るシーンは良い意味で「CG」全開という感じなのですが、塚地さんの唾が飛ぶ映像や、定食屋のカラフルな背景などでもCGが使われていますよね?
小坂「そうですね。あと外でロケする時に、どうしてもロケーションの場所とか、当日の天候が限られてしまうんです。でも、空を美術で作ったり、良い天候を待つような予算の余裕もないので、そういう場合はCGを使って天候を変えたりする場合があります。あと、杏仁になった琢郎が、初めて訪れるビルの外観なんかは全てCGで描いてます」
――小坂さんはクリエイターとして、CGで映像に自然な効果を加えるのと、技術を駆使して「凄いCGだな」と思わせるような映像を作るのとでは、意識として違いはあるのですか?
小坂「違いはありますが、両方とも楽しいです。どちらかといえばCGを自然な実写に見せるほうが僕は得意なので、今後も売りにしていきたいですね」
――今回の『ハンサム★スーツ』で一番観て欲しいVFXシーンはどこでしょうか?
小坂「やはり、変身のところですね。今回はモーフィングを使用しています。いわゆるモーフィング技術っていうのは、やはり平面的な歪ませでモーフィングしてるんですけど、今回は3Dのモーフィングなんです。それをやるためにハンサムスーツはもちろんなんですけども、谷原さんの体も、すべて3DCGで1回描き出しています。そのために、谷原さんの全身の造形を3Dスキャニングしてるんです」
――自然な着色という部分では、どんなシーンに力を入れていますか?
小坂「バスがハンサム橋と言われる橋を渡るカットがあるんです。あそこは非常に英監督がこだわった場所で、クランクインする前から、こちらの方でテストの合成素材ですとかイメージボードのようなものを作って英監督に見せてやり取りをしていたんです。橋の形や色は、最後までこだわりましたね」
――橋の外観自体もCGで描いてるのですか?
小坂「完全にゼロから描いてます。橋の片側が琢郎が住んでるちょっと田舎っぽい町で、杏仁に変身して向かう反対側の街が、やりすぎなくらいの大都会なんです。そのコントラストも表現したいっていう部分があったんです。凄い高いビルがあって、高いビルの麓には、こういうイギリスみたいな街並みがあるんです。1回観ただけではお客さんには伝わりづらいところではあるんですけど、あそこは見た目以上に手が込んでいるというか、苦労した部分ですね」